第2話 不採用って続くと心折れるよね

山田真理亜35歳、つい先日魔法少女として就職しました。


なんでやねんという反論は認めない。


私自身が一番よく分かっていないからだ。


でも、確かに私は少女学生くらいの美少女魔法少女に変身して悪のエイリアンを退治した。


就活に対しての怨みをエネルギーに変えて初戦闘のわりには見事に敵を打ち倒した。


私と私の怨みって意外と凄いなって思えた。


まともな職に就かせなかった世間が悪い。








「初戦闘!初勝利!おめでとう!山田真理亜くん!」


魔法少女の組織に戻るとボスがクラッカーを何個も鳴らして歓迎してくれた。


若干うざい。


なんなら上にくす玉も見えているが見ない振りをしていたらキュートさんが引っ張って「35歳でも頑張れる!」と書かれた垂れ幕が落ちてきた。


大きなお世話過ぎるので渾身のアッパーをボスとキュートさんにキメた。


我ながらキレがいい。








歓迎会と言われ嫌々ながらも、ただ飯だから…と観念してボスとキュートさんと居酒屋に行った。


魔法少女として居酒屋に行くってどうなんだ。


生ビールを3つとつまみを適当に注文して、ビールが届いたら乾杯した。


乾杯ってなんか楽しいよね。


酒癖悪い上司とエイリアンが絡んでこなければ。


前まで勤めていたブラック会社で慣れていたため適当にいなし、まだマシな状態のキュートさんに色々と訊ねてみる。


「キュートさん、悪のエイリアンてどんだけいるの?」


「それは分からないけれど、悪エイリアンを束ねる悪の組織があるんだよ!」


「日曜の朝によく観る展開だ!」


彼女・彼等もよく頑張っていた。


ししゃもを頭から食べ頷く。


「まあ、魔法少女を束ねる組織があるくらいだから悪エイリアンを束ねる組織があっても不思議じゃないよね」


そこまで言って思い立った。


「キュートさん、悪のエイリアンを束ねる組織を壊滅させたらいいんじゃない?」


「やだなぁ。そんなこと出来るくらい優秀な人材が豊富なら35歳無職をスカウトしたり切羽詰まってないよ!」


「いちいちえぐってくるのやめてくれない?」


キュートさんの頬を掴み横に伸ばす。


意外と伸びるな、キュートさん……。




しばらくキュートさんと談笑していたら酔っぱらって一人でモノマネレトレーして放置していたボスが急に我に返ったかのように肩を掴まれ懇願された。


「そうだ!我々にはまだ敵に対抗するだけの力がない!35歳のどこにも雇ってもらえない無職に頼むしかなかった我々の気持ちも察してくれたまえ!」


意外と大きな声なので居酒屋に響き渡った。


私は肘鉄をキメた。


「ぐっ………。やはり魔法少女とは物理力…」


「すみませーん!生ひとつ追加でお願いしまーす!」


倒れるボスを無視して注文しておく。


わりと頑丈なボスはすぐ立ち直った。


ビールが届くまでにたこ焼きをもしゃもしゃ食べながら訊ねる。


「やっぱり、他の魔法少女が離職した理由は敵側が強くて負けてしまったからとかなんですか?」


「いいや」


ボスは緩やかに首を横に振る。


本当に外見だけはイケオジなので黙って椅子に座っていてほしい。


「大体の離職理由はまともな会社に勤めたいからということだ」


「やっぱあんたらのせいじゃん!!!またブラック会社に就職してしまった!辞めたい!就労1日目だけれど!!!」


頭を抱えて叫ぶ私にボスが反論する。


「何を言う!立派なホワイト会社だ!福利厚生はちゃんとあるし有給取得率はいいしこんないい会社社は早々にないぞ!!」


「それなのになんで離職率高いんですか?」


「『ボスとキュートさんが嫌だ』とは言われているな」


「上司を!!変えろーーー!!!!」


私の叫びは元凶には届かなかった。


先人達よ、貴方達は賢い。


すぐ辞めて正解だよこんな上司じゃ。


やいのやいの騒いでもここは居酒屋。


他の酔っ払いも私の会社と上司への怨みを皮切りにどこでも愚痴大会が始まってしまった。


居酒屋がとても騒がしくなってしまったけれど、私のせいじゃないもん。








翌日、二日酔いを抱えながら出勤し与えられたデスクで考える。


唯一残っている魔法少女の同僚であるロックのミサキさんやピーマン撲滅のアキさんとはまだ会ったことはない。


いや、正直なところ名前からして会いたくはない。


私はまともな名前で魔法少女としてお仕事頑張ろうと決意も新たに魔法少女としての名前を考える。




「うーん…」


「どうしたんだい?山田真理亜くん」


悩んでいたらキュートさんが訊ねてきた。


「いえ、魔法少女としての名前を考えていたんですよ。まともなの、って思うと色々と考え込んじゃって…」


「なるほど!なら35歳のマリアでいいと思うよ!」


「外見小中学生の女の子の魔法少女の夢を一気に壊すな!本名出すな!!」


キュートさんを締め上げるとすぐにどこからだしたのか分からない白旗が上がった。


「なら、やっぱり腕力のリアはどうかな?」


「キュートさん、実は私のこと嫌いですよね?」


締め上げる腕にも力が入る。


でも、リアはなんかかわいいから二つ名は置いておいて魔法少女のリアでいこうと思う。


新しい悪エイリアンが出るまでにはそのうちなんか思い付くだろう。








そう思った瞬間に警報音が鳴り響き悪エイリアン出現を知らせる。


「35歳魔法少女山田真理亜くん!出番だよ!」


「その二つ名で決定稿出したら訴えるからな!!あと本名で魔法少女はやらないからな!!!」


キュートさんに叫びながら敵の出現地点に急いで走った。


こういう時こそ魔法のなんか便利道具ないんかい!








ささっと魔法少女っぽい可愛らしいゴテゴテなステッキで「魔法少女のこんちきしょー!」と叫び美少女な魔法少女に変身し、敵エイリアンと対峙する。


別に何も言わなくても変身は出来るが、私の心の叫びを乗せた方が勢いがいい気がする。




「魔法少女リア!華麗に見参!」




ビシッとノリノリでポーズをキメてみた。


だってせっかくの美少女だし。魔法少女だし。せめて外見美少女を楽しみたい。


やっておかなきゃみたいな使命感があってやってみたけど、避難途中の通行人からはポカーンとされた。


よし!二度とやらない!!


心に決めて、こんなことをしなきゃいけない元凶に向かい合う。


このステッキは鈍器ではないと昨日の初戦闘後、キュートさんに散々叱られ使い方を30分研修したから分かっている。


そして、魔法のステッキを使いエネルギーを込めて叫ぶ。




「今後のご活躍をお祈りお焚き上げファイアー!!!」




散々言われてきた不採用通知によくある文面を思い出しエネルギーを込めて解き放つと大きな火の渦が敵エイリアンを燃やし尽くした。




これは不採用通知を貰った就職難民からありがたられたとニュースで後から知った。








みんな!不採用でも諦めないで!


あと転職先の見極めも大切にね!








山田真理亜35歳、今日も元気に魔法少女頑張りました!


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