仲間でしょ?とパワハラする女勇者に無実の罪で追放されたけど、むしろ解放されて今ではS級冒険者です~お願い!あなたが戻ってきてくれないと私たち娼館堕ちしちゃうの……と後から懇願してももう遅い~

黒おーじ@育成スキル・書籍コミック発売中

第1話 仲間でしょ?


 強敵ダーク・ドラゴンはどうにか倒した。


 魔法剣士のカイトはその戦いのダメージで森に倒れている。


 そんな時。


「ちょっとカイト! なに寝てんのよ!」


 いつもの怒鳴り声が頭の上に鳴り響いた。


 見上げると旅人風の服で短いスカートに太ももをギラつかせながら、ツンっと胸を張る美少女が仁王立におうだちしているのが見える。


 パーティのリーダー、女勇者のフレアだ。


「フレア……」


「グズね。さっさと起きて、アタシのオムライス作りなさいよ!」


 怒鳴りながら背中のあたりをゲシッ!と蹴ってくるフレア。


 するとパーティの他のメンバーも寄ってきた。


「おいおい、オレのステーキもまだできてねえのかよ」


「ヤバぁ。ちょーお腹減ってるんですけどお。パスタぁ」


 男のような口調の女戦士ベラは不快感をあらわにし、聖女ノーラはお腹をさすりながら恨めしそうに睨んでくる。


「ご、ごめん……ダメージでまだ立てないんだ。もうちょっとで回復魔法がすむから」


「はあ? そんなの知らないわよ! アタシたち仲間でしょ? さっさと作りなさい!」


「な、仲間……う、うん。わかったよ」


 カイトは回復魔法の途中でフラフラと膝をつき、なんとか立ち上がろうとする。


「はー、カイトお前、本当フレアの言いなりだよな」


 と、女戦士のベラ。


「だって……仲間だから」


「ふーん」


 するとベラはこぶしでカイトの肩をガツン!とひとつ殴り付けた。


「痛いッ、なにするの?」


「別に……お前見てるとイライラすんだよ。オラ!」


 女戦士のベラはビキニアーマーの乳房をぷるんぷるんと跳ねながら、肩を二度、三度、四度と殴りつけてくる。


「痛い、痛いよ! やめて、ベラ」


「あ? なにけようしてんだよ。けんな。仲間だろ?(笑)」


「あははは! ヤバぁ、ちょーウケるw ヤバぁww」


 法衣をパタパタとさせ笑いながら拍手する聖女のノーラ。


「うっ……も、もうご飯作るから……やめて……」


「ああ? どうするフレア?」


 ベラに尋ねられて、女勇者のフレアは汚物でも見るような視線でこちらを見下し、言った。


「ふん、とっとと作りなさい」


「う、うん」


「……もう、気持ちわるいんだから」


 そう残して、フレアたちは一旦その場を去った。



 ◇



 カイトは亜空間のアイテム・ストレージから食材と調理器具と食器と魔道コンロを出して、調理を始めた。


 じゅー……!!


 魔道コンロの火力が鉄のフライパンの上のバターを熱し、すばらしい香りがたつ。


 実際、これほどのアイテムを収納できる亜空間を作りだせる者は、冒険者でも数えるほどしかいない。


 もちろん、あの女子三人ができるはずもなかった。


(それにダーク・ドラゴンだって、ほとんど僕が戦ったんじゃないか……)


 カイトは無意識にそんなことを思うと、ハッとして首をぶんぶん振った。


「なんてことを考えるんだ。クエストはひとりのものじゃない。仲間みんなの成果なのに……」


 そんなふうに自分を叱っていた時である。


 フレアたちが戻って来て怒鳴った。


「ちょっと!! まだできないの!」


「あっ、ごめん。もうできるよ!」


 あわてて出来上がったオムレツと、ステーキと、パスタを皿に盛ると、女勇者たちのところへ料理を運ぶ。


「ぉ……おまたせ」


「遅い! アンタ、本当に仲間を思いやる気持ちがあるの?」


「ご、ごめん……でも心を込めて作ったから」


「死ね!」


「キャハハハハ(笑)」


 そう言って美少女三人はオムレツとステーキとパスタをそれぞれ食べ始める。


 その間カイトは食後のアイスとプリンとショート・ケーキを用意し、紅茶とオレンジジュースとアイス・コーヒーを入れなければならない。


「でさあ。そのオヤジが本当臭くて」


「それ、相当だな」


「ヤバぁ、ちょーウケるww」


「あの……さ」


 食後、スウィーツと飲み物を持って、カイトは尋ねた。


「……おいしかった?」


 三人は2、3秒黙ったが、すぐにフレアが口を開く。


「でさ、臭くてさぁ。しょうがないから店員に言ったんだけど」


「本当、最悪だなそいつ」


「ヤバぁw ヤバぁww」


 じわっと涙がにじみかけた。


 でも、無視されて泣いたら仲間じゃなくなるような気がしてグッとこらえる。


(なんてことない。軽い冗談じゃないか)


「あ、カイト」


 そんなふうに言い聞かせていると、すぐにフレアに呼びかけられた。


「な、なあに?」


「アタシたち、これ食べたら先に馬車で帰ってギルドに『ダーク・ドラゴン討伐』を報告してくるから。片付けお願いね」


「え? 馬車で? 僕は?」


「歩いて帰りなさい」


 ここは深い森の中。


 近くの林道に停めてある馬車を使わねば、歩きで三日三晩かかるのが普通だ。


「何よ。文句あるの? ないわよね? アタシたち、仲間だものね?」


「う、うん……」


「じゃあ、お願いね」


 そう言って三人の“仲間”は馬車で帰って行ってしまった。


 ヒヒーン……!


(ほっ……)


 束の間の安堵。


 いなくなると安心する仲間とは、一体なんであるか?


 そんな疑問は考えないようにして、あるいはむしろ自分が悪いような気さえ抱えつつ、食器やコンロの片付けを始めた。


 すべて済むと、彼は走り始めた。


 常人であれば歩いて三日三晩かかる道のりだが、彼ならば半日で着く。


 ポツ、ポツ、ポツ……ザアアアアアアア……!


 途中で雨が降りだし、足元をぬかるませた。


 しかし彼にとってそんなことくらいはツライの数に入らない。


 町に着けば、また不安で苦しい日常が待っているのだ。


 そんなに苦しいなら逃げ出せばよいと思われるかもしれない。


 でも、逃げ出すなんてできなかった。


 生まれ持っての気の弱さから地元の村で子供カースト最底辺だった彼と『トモダチ』になってくれたのはフレアたちだけだった。


 逆にカースト最上位だったフレアたちによって、彼は『空気』で『透明』だった日々から抜け出すことができたのである。


 冒険に出た今、彼の世界と価値のすべてはフレアたち『仲間』だった。


 逃げ出した時点で仲間は、仲間でなくなる。


 からっぽで、空気で、透明になってしまう。


 だから逃げられないのだ。


 それは『仲間』という鎖にがんじがらめにされた、終身刑のような獄。


 むしろこのままずっと雨の森を走り続けていられたら、どんなに楽だろう……


「あら、遅かったのね」


 町に着いたのは日も暮れた頃である。


「ギルドへは報告しておいたから。はい、これアンタの分け前」


 フレアはそう言って5000ゴールド札を一枚手渡した。


「こ……これって四等分?」


「四等分よ。2万ゴールドの報奨金でひとり5000ゴールドね」


 そんなわけがなかった。


 ドラゴン討伐ならば、最下級のグリーンドラゴンでも200万ゴールドは下らない。


 今回はそれより断然格上のダーク・ドラゴン。


 最低でも1000万ゴールドの報奨金は出るはずだ。


 それを2万ゴールドだったと言う。


 ウソにしても、バレないようにするウソではない。


「フレア……」


「え、何? まさかアンタ、仲間を疑うの?」


「うっ、ううん。疑ってないよ」


「そう。ならいいのだけれどね♪」


 フレアは美しい顔でニコリとほほ笑み言った。


「ありがと。カイト」


 そのたった一言の礼で、カイトは思った。


(やっぱりフレアは仲間だ)


 ……と。


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