モブ転生して妻子を養う「パパ活したら楽しい」説 ――ゲーム転生直後に追放され、異世界でも最底辺に転落した俺。勇者に成長する孤児を拾うと、美少女ママが付いてきた。よしきた俺は子供と家族のために生きるぜ!
猫目少将
第一部「新米パパ」編
第一章 社畜転生モブ、新米パパになる
1-1 転生五秒で追放って、どういうことwww
「さて、無事ダウンロードできたし……」
スマホ画面で、俺は読み始めた。異世界ファンタジーゲーム「遙かなるアルカディア」の小説版。といっても本編ノベライズじゃなく、同じ世界観で別の主人公が活躍するパターンの奴よ。
「おっ。プロローグから勇者が出てるじゃん。こいつが主人公だな。マカロン……か。おっさんのくせにかわいい名前だわ」
俺は原作ゲームこそやってないが、アニメは見てた。底辺社畜なんで、長時間ゲームする時間なんかない。アニメなら残業帰りの深夜、半額弁当食いながらボヘーっと流し見できるからさ。疲れを取るのに最適というかな。彼女すら居たことないから、そのくらいしか楽しみないし。
「おっと!」
誰かにぶつかった。
「すんません」
歩きスマホは危険だわ。歩道のガードレールに腰を掛けて、また小説に戻る。腹いっぱいだから、少し休みたい。とりあえずプロローグだけ読んだら、会社戻るわ。そうしないと、ただでさえ短い昼休みが終わるし。一分でも戻るの遅れると、鬼の形相だからな、部長。ブラック企業のくせに、ヘンなところだけ真面目で参るわ、実際。
「マカロンって、アニメでも出てこなかったからなー。……どんな話なんだろ」
アニメで脇役が人気になったから、「まだこのネタで稼げるだろ」ってんで、このスピンオフ小説が出版されたんだとさ。新たな主人公の小説が人気になれば、そいつベースでゲーム新作作る気満々らしいわ。
「なになに……。マカロンは神域でタブーを犯して追放されるのか」
プロローグだけに激しく物語が動くな。にしてもこいつ、始まって早々追放されるとか、割と間抜けじゃん。それでも主人公かよ草。
「危ないっ!」
誰かの大声が聞こえた。
「逃げろっ!」
「上よ、上!」
OLスタイルの子が、俺を指差して絶叫してる。
「なんだ……?」
つられて冬空を見上げると、改装中ビルの足場から、どでかい鉄板が落ちてくるところだった。
●
「ってー……」
頭がどえらく痛む。鉄板直撃食らったからな。
でも死んでないな。それに俺、なんやら知らんが立ってるし。目を開けてみた。
「なんだこれ……」
言葉が出てこない。だって俺が立ってるの、神田の小汚い歩道じゃないし。なんやら知らんが緑豊かな麦畑のような光景が広がっていて、彼方には険しい山々が見えている。しかも暖かい。春の陽気だ。今、11月末の冬なのに。
それに昼飯直後で腹いっぱいだったはずなのに、どえらく腹減ってるわ、俺。今すぐなんか食わんと倒れちゃうくらいに。
「あんたら……」
おまけに目の前に五人、ファンタジーコスプレの男女が立っている。先頭のおっさんは中年で、革と金属の防具姿。サルバドール・ダリみたいな気取った髭を生やらかしてやがって、腰には長剣まで下げている。
「あんたら、誰」
「はあ? なにを言っておる」
「無理もないことです、ランスロット卿」
頭の良さそうな女が、口を挟んできた。三十歳くらいのどえらい美人だが、瞳は冷たい。それに全員、日本人じゃないな。髪や瞳の色を見る限り。緑の髪とか、外国人でもない気はするが。
「突然の通告に、頭が混乱しているのでありましょう」
「うむ」
気取った髭野郎が頷いた。
「さにあらん。さすがはお荷物だ」
「ちょっと待ってくれ」
今、気づいた。遠くに見える山、あれには見覚えがある。俺が読んでた小説の原作ゲームというかアニメ、あの世界の奴だ。しかも俺自身、ネクタイなんかしてない。革と布の軽防具姿で、腰に短剣を下げている。
「いやいやいやいや」
振り返った。背後には石造りの頑丈そうな壁が見えていて、壁の上から見覚えのある王宮が覗いている。
「ここ、アルカディア世界だ……」
夢じゃない。暖かな風が緑の香りを運んでくるし、自分をつねってみてもきっちり痛い。
「なら俺、転生したんか……」
多分、俺は死んだんだ。鉄板の下敷きになって。そしてこの世界に転生した。おそらく死の瞬間、あの小説を読んでいたから。
「あんた、ランスロット卿って言うのか」
「なにを言っとる」
軽蔑の瞳だ。
「俺は誰だ」
自分の手とか見る限り、俺は多分普通のおっさんだ。しかもこいつらは俺のことを知っている。つまり転生と言っても赤子として生まれ変わったんじゃなくて、誰かこの世界のキャラに憑依転生したに違いない。
「俺はマカロンって奴か」
小説を読み始めたところだ。出てきたキャラなんか、名前があるのはマカロンだけだった。てことは、こいつに転生した可能性が、一番高い。
「誰だそいつ」
鼻で笑われた。
「どうやら気が狂ったようだな」
どでかい剣を背負ったムキムキが苦笑いした。プレートメイルっぽい装備に金属ガントレットまでしてるし、両手持ちの重剣使いか。
「ランスロット卿、こいつはもはや用無しどころかお荷物でしかないぞ」
「わかっておる」
ランスロット卿とかいうヒゲが、俺に向き直った。
「お前はここで追放する。無能な上に役立たずだからな」
「剣術は苦手、魔法も使えない、しかもヒョロガリで、荷物持ちにすら使えやしない」
ローブ姿のじじいだ。
「達者なのは口だけとか、詐欺師ではないか。国王の命で失われたアーティファクトを探す我らパーティーには、能力、人格ともふさわしくない」
「いや待て。俺は今、なにもわからん。せめてもう少し、事情がわかるまで数日でいいから同行させてくれ」
「家族の元に帰ればよかろう」
「ランスロット卿、それは少し気の毒です」
いちばん後ろに控えていた女が眉を寄せた。二十歳そこそこに見える。まあ美人だ。着ている服から判断すると、アニメに出てきたヒーラーに近い。
「天涯孤独の身の上を、からかってはなりません」
「ふん……」
ランスロット卿に睨まれた。
「こうして王都の前で追放するだけ、我々は有情だ。ダンジョン奥底などではなく、な。我らは残虐なモンスターとは違う。通りでせいぜい乞食でもして暮らせ」
「いや待てよ」
「腕を離せ、無礼者!」
どんと胸を押される。野郎は剣を抜いた。
「お前のような平民風情が、貴族に触れるでない。斬り捨てられたいのか」
どういう理屈か刀身が青白く発光する謎の剣を、鼻先に突きつけてきた。
「……いや」
ぐっとこらえた。転生直後に死んだら意味ない。せっかく死の運命から解放されたんだ。みじめでもなんでも、とりあえず今日一日だけでも生き抜く。その先のことは、後で考えよう……。
「消えろ、クズ」
言い残すと、野郎は後ろを向いた。もう俺を振り返りもせず、パーティーはずんずん歩み去ってゆく。
「あの……」
俺をかばってくれた女が、駆け戻ってきた。
「これを」
ずだ袋を手渡す。じゃらっという手応えで、重い。
「私の給金です。これでしばらく暮らして」
巾着を開くと、中に銀貨らしきものが見えた。
「困ったら、王都のサバランさんを訪ねて。きっと力になってくれるから」
「サバラン……さん」
「あなたはパーティーのムードメイカーだった。だからこそみんな、後顧の憂いなく戦えた。ランスロット卿は貴族だけに、かしづかれるのを当然と思っている。あなたの優れた点が見えていないのです」
俺の手をぎゅっと握ってきた。
「契約の縛りさえなければ、私も力になれるのに……。ごめんなさい」
「いや……。あんたはよくしてくれた。転生して右も左もわからない俺に」
「てん……せい?」
不思議そうに、首を傾げる。
「ああいや、こっちの話だ。……あんたの名前は」
「ノエルでしょ。……本当に忘れたの?」
「早く来いノエル。今週の俸給を払わんぞ」
「は、はい……」
もう一度、ノエルは俺の手を握ってきた。
「私には見えている。あなたの前には、素晴らしい運命がある。だから……強く生きて」
それだけ言い残すと、駆け戻ってゆく。
「……って、なんだこれ」
残されてひとり、呆然としていた。頭が全然働かない。こんなん、悪夢以下だろ。この世界の常識を全く知らない俺が、たったひとりでどうやって生きていけばいいってんだ……。
「始まって早々、追放されるとか、こんな間抜けおる?」
さっきと同じ言葉が、思わず口をついた。カラスのような鳥が、木から飛び立った。俺を見下ろし「アホウアホウ」と啼いて。
●次話からさっそく、転生即追放社畜の「人生大逆転」劇が始まります!
王都に入った俺は、さっそく異世界の厳しい洗礼を受けるが……。
次話「お前それ、主人公の名前じゃん!?」、本日昼、連続公開!
●「面白そう」「とりあえずもう少し読んでみるわ」と少しでも思っていただけたら、フォローおよび星みっつ(★★★)での評価をお願いします。原稿執筆の力になります。ただいまコンテスト挑戦中だけに、なにとぞひとつお願いしますー ><
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