Grooveのままに踊る僕を見ていたあなたに捧ぐ
うつりと
第一小節 武藤りきた
僕の名前は荻堂圭。48歳。鬱病持ちのおっさんである。
今日も昔の話をしよう。
僕の経験した話をすることは僕が生きた証を残すことになる。もはや僕の人生でやることなど、それともう一つ位しかない。
「もう一つ」とはお金があったらリハーサルスタジオに行ってドラムを叩くこと。
殆どもうそれだけが生きがいと言ってもいい。
(生きがいという割には大して上手くはないのだが)
ドラムを叩こうと思ったきっかけの動画がある。
浪人時代のある日、僕は予備校をさぼって新宿西口にいた。
当時新宿西口に、海賊ビデオ屋があって、僕はある時、高校の友達にそこを教えて貰ったのだが、一部の音楽ファンの間では有名な店のようだった。
小さいコンビニ位の売り場面積の二階建て。所狭しとミュージックビデオやライブビデオのコピーされた海賊版が棚に並べてある。平積みになったりもしている。
ビデオデッキとモニターが十台位おいてあり、好きなブツを自由に試聴して、内容やクオリティに納得したら購入するというシステムになっている。
僕は小学生の頃からベストヒットUSAなどを観ていて、高校生位から洋楽を深堀りして聴くようになっていた。
特に、60sや70sのビートルズ以降のバンドを聴いていたのだが、僕は当時、何か物足りないものを感じていた。
話が前後してしまうのだが、僕が生まれて初めて親に買ってもらったレコードが、のこいのこさんが歌っていた
「ハッスルばあちゃん」
https://www.youtube.com/watch?v=rxInF3AJKZM
という曲だった。ポンキッキでやっていた曲だ。ずっと「みんなのうた」だと勘違いしていたのだが、大人になって調べてみるとポンキッキだとわかった。
逆算してみてわかったのだが、僕がまだ物心がつく前(3~5歳)の頃というのはディスコブームというものがあった時代で、サタデー・ナイト・フィーバーというジョン・トラボルタ主演の映画が大ヒットした頃だった(らしい)。
劇中歌の
Stayin' Alive
https://www.youtube.com/watch?v=fNFzfwLM72c
という曲を数年後、ベストヒットUSAで観た時に何故か「これこれ!これが聞きたかった!」と思った。この頃も、僕はまだ小さかったので、意識的にそういったディスコミュージックを聴いていたわけでもなかったし、あのハッスル感がなんのきっかけで僕の耳に入って来たのかはわからないのだが(もしかすると音楽好きだった叔父さんが聴いていたのかもしれないのだが、この叔父さんについてはまたいつか話すことがあるかもしれない。)、いつの間にか僕の無意識には「ハッスル」が刷り込まれていた。
Bee Gees が実はハモリが売りのコーラスグループだと知ったのは高校生になってからだ。
とにかくそんなわけで、僕の無意識にはディスコミュージック、特にFunk Musicが強烈なまでに刷り込まれていた。
さて新宿西口の海賊ビデオ屋に戻ろう。
この時僕は未だ自分の無意識に刷り込まれている何かには気づいていない。
ただ当時僕が好きだった、The Beatles、 Pink Floyd、The Rolling Stones、等にはない、何かもっと強烈な、言葉では表現できないとにかく「何か」を欲していた。
唯一の手がかりは、
James BrownのPapa's gotta brand new bag
https://www.youtube.com/watch?v=QE5D2hJhacU
という曲だった。
この曲のなんというかビート感。踊りださずにはいられない何か。めちゃくちゃ格好いいと思った「何か」。
それを、そのわからない「何か」をどうやら
" Funky "
と呼ぶらしいということだけが手がかりだった。
なんとなく店内を見回っていると「P-Funk」と書かれたビデオがある。
「"Funk"がついているからFunkyなのかな。まぁいつもの期待はずれだろうがちょっと観てみるか。」
僕はビデオを手に取り、デッキに差し込む。ヘッドホンをかぶりモニターを眺めた。
https://www.youtube.com/watch?v=r5aHD5ruSZ0
僕は固まった。
何分観入って(魅入って)いたのかわからない。
壮大な世界観から入る演出。そしておもむろに入るタムドラムからの強烈なビート。絶叫するような、それでいてメロディアスなエレキギター。
そして。。。。。。
Funkyだった。
今まで聴いて来たどんな音楽よりもFunkyだった。Michael Jacksonよりも、Princeよりも、Scritii Politiiよりも、Cameoよりも、Earth Wind and Fireよりも、Slyよりも、そして、、、、、James Brownさえよりも。
長年追い求めていた音楽が今突如として、僕の耳に、目に、ダイレクトに飛び込んで来ている。
何分も固まっていた。
僕は半ば呆然としながらテープを止め、巻き戻した後、一切の迷いなくこのビデオ、P-Funk - The Mothership Connectionをレジに持っていった。
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