第16話 約束

 あれから、時は流れ……。





「あの日の約束を果たす時が来ました。もう1度本気で戦う、という約束を」



 シエラとエイダンは事務所近くの広場にいた。


 ここは、シエラが入団試験の時に、エイダンと戦った場所だ。


「初めて戦ったあの時、エイダンさんがギブアップを宣言したため、私は試験に合格することが出来ました。ですが、実際のところ、私は圧倒されていました」


「ああ」


「私の実力は、エイダンさんに遠く及んでいなかった。――でも、あの時から、私はそれなりに成長したつもりです。今なら、いい勝負ができると思います」


「ふっ。楽しみだよ」


 シエラとエイダンは逆方向に歩き出し、距離を取ってから立ち止まり、そして向き合った。


「準備はいいですか?」


「もちろん」


「では……」


「「3、2、1、はじめ!」」




 開始と同時にエイダンはシエラに迫りながら、魔法を唱える。


「ブラックスミス――刀火華神とうかかしん!」


 その手に刀を創造し、シエラに斬りかかる。


「はっ!」


 カキーン。


 シエラはエイダンの刀を木刀で受け止める。


 カキーン、キン、キーン、カキーン。


 シエラの木刀とエイダンの刀がぶつかり合う音が幾度も響く。


「やるな!」


「そちらこそ!」


 エイダンが後ろに跳び、距離を取る。


「ブラックスミス――大剣炬星たいけんきょせい!」


 エイダンは刀を消し、代わりに大剣を創造した。



 おそらく、刀では埒があかないと思ったのでしょう。

 

 力でねじ伏せるつもりですね。 



 シエラはそう理解する。


「幹薙!」


 シエラの目の前に長くて太い丸太が現れ、シエラが勢いよく腕を横にふると、腕の振りと連動して丸太が動く。


「ふっ!」

 

 エイダンは高く飛び、シエラの攻撃を回避すると、そのまま降下しながらシエラに大剣を叩きつけた。


「くっ!」

 

 シエラはエイダンの攻撃を木刀で受け止めたが、衝撃に耐えきれず、片膝をつく。


「まだまだ!」


 さらに大剣を振るエイダン。


「きゃ!」


 エイダンの追撃をくらい、シエラは吹き飛ばされた。

 

 しかし、吹き飛ばされながらも、シエラは反撃をする。


「種子散弾!」

 

 シエラの指先から無数の種子弾が放たれる。


「ブラックスミス――弐紅短剣妖にくたんけんよう!」


 エイダンは大剣を消し、代わりに短剣を創造すると、その短剣を素早く振り回し、種子弾をはじき落とした。



「ぐっ!」


 背中から地面に倒れるシエラ。


「ファイヤーボール!」


 エイダンの放った火球がシエラに迫る。


「くっ。はっ!」

 

 痛みに耐えながらも、なんとか立ち上がり、シエラは火球を木刀で斬り払った。


「ふぅ――えっ?」


 消えた火球のその先に、居るはずのエイダンの姿がなかった。


「しまっ――」


「烈掌打!」


「ぐぁ!」


 背後にいたエイダンから掌底をくらい、再び吹き飛ばされるシエラ。


 かろうじて受け身をとったため地面に倒れることは免れたシエラだったが、ダメージの蓄積により膝をつく。


「仕方がありません……」


 シエラは懐から小瓶を取り出し、中に入っているオレンジ色の液体を飲もうとした。


「させるか」


 エイダンは、短剣をシエラの方へ投げた。


 パキーン!


 エイダンの投げた短剣が瓶を割り、中のオレンジ色の液体が激しく地面にこぼれ散る。


「くっ!」


「やれやれ。回復薬を飲もうとするなんて油断ならないな」


 エイダンは大剣を創造しながら、シエラに近づいていく。


 シエラは逃げることも立ち向かうこともせず、膝をついたまま、その場から動かないでいた。


 シエラの前で立ち止まり大剣を構えるエイダン。


「これで終わりだ」


「……ふふっ」


「何がおかしい?」


「私が放った種子弾はここで弾き落とされました。そして今、瓶の中身も、ここにこぼれ落ちました」


「それがどうした?」


「――いざ、目覚めよ!」


 シエラがそう叫ぶと、地面に落ちていた種子弾から無数のツルが伸びだし、そして、エイダンに絡みついた。


 種子弾が回復薬を浴びたことで生命力を活性化させ、発芽したのだ。


「ちっ、小賢しい」


 エイダンはもがいているが、ツルは一向にほどけない。


 シエラはゆっくりと立ち上がり、木刀を構え、勝ち誇ったように余裕の笑みを浮かべる。


「形勢逆転です」


「……ふっ」


「何かおかしいですか?」


「この程度でオレを捕らえたつもりか?」


「強がりですか?」


「そう思うか? まあ、その目で確かめるといいさ。――装紅蓮!」


 エイダンは全身から炎を豪快に放ち、絡まっていたツルを燃やし尽くした。


 その後、放った炎を凝縮させ、自らの身に纏った。


「……さすがですね」


「どうも。――さあ、ここからだ」


 エイダンは拳を構える。



 炎をまとったエイダンさんからは、異様な威圧感が放たれています。


 おそらく、この状態のエイダンさんから攻撃をくらうのは、マズイ。



シエラはそう直感する。


 シエラは、後ろに大きく跳び、距離を取る。


「どうした? 逃げ腰だな」


「誰だってこうすると思いますよ。だって、今のエイダンさんは恐ろしいですもん」


「そんなに恐ろしいか?」


 わざとらしく笑顔を作ってみせるエイダン。


「笑ったら大丈夫とか、そういう問題じゃないです」


「そうか」とエイダンは真顔に戻る。


「ただ、距離を取ったのは、他にも理由があるんですけどね」


「ほう?」


 シエラは首にかけた琥珀のペンダントを握り、こう唱えた。


「共鳴魔宝!」

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