第3話 勝負のゆくえ

幹薙かんなぎ!」


 シエラの目の前に、長くて太い丸太が現れ、シエラが勢いよく腕を横にふると、腕の振りと連動して丸太が動き、エイダンを打ち払った。



「くっ! なるほど、なかなかの威力。たしかに君は強いみたいだ。……でも、残念」



「まだまだ! 幹薙!」

 ここぞとばかりにシエラは攻撃を重ねた。


 長くて太い丸太がエイダンに迫る。



「ファイヤーボール!」


 エイダンはシエラにではなく、丸太に向かって魔法を放った。


 火球と丸太がぶつかり合い、煙が激しく上がる。

 

「これで丸太は燃え――何!?」


 煙の中から、黒く焦げたように見える丸太が勢いを衰えさせることなく姿を現し、エイダンを打ち払った。


「ぐわぁ!」


 エイダンは片膝をついた。


「エイダンさん。さきほど、あなたは残念・・と言いましたね。それはおそらく、木は火に弱い、と考えたからでしょう」


「くっ、その通りだ。だって、木は燃えるだろ? だからファイヤーボールで君の丸太を燃やし尽くそうとしたのに……このザマだ」


「たしかに木は燃えます。ですが、燃え尽きにくいんです」


「燃えるけど、燃え尽きにくい……?」


「ええ。木は燃えると表面に炭化層ができるのですが、その炭化層のおかげで、燃焼が進みにくくなるのです」


 シエラが淡々と話すのを聞きながら、エイダンは丸太に視線を向ける。


「なるほど。黒く焦げてはいるが、それは表面だけってことか。ふっ、面白い」


「木に興味を持ちましたか? もっと詳しく知りたいなら、本を読んだり、ネット検索してみてださい」 


「ネット検索?」


「どうかしましたか?」


「いや、なんでもない」


「そうですか」


 一連の会話のおかげで空気が少し和やかになったかと思われたが、


「君を少し見くびっていたようだ」


 と言いながらエイダンが立ち上がり構えると、この場の空気が一気に張り詰めた。



「少しだけ、本気を出すか」




 エイダンは、すでに2度の攻撃を受けている。


 追い込んでいるのはシエラの方だ。


 そのはずなのに。




 エイダンの表情や口ぶり、この場の空気が、シエラの勝利を否定している。



「いくぞ! ファイヤーボール!」


 火の玉がシエラに迫る。



枝条小銃シュートライフル!」


 シエラは指鉄砲のポーズをとり、指先から葉のついた茎を出現させると、その茎を弾丸のように放った。


 枝条小銃シュートライフルをファイヤーボールにぶつけることで、攻撃を相殺しようとしたのだ。


 両者の技がぶつかり合い、攻撃は相殺され、相手の姿が隠れるほどに激しく煙が上がる。


「ふう。あなたの本気はこの程度ですか?」


 煙が風に流れていく。 


「たいしたことありま――えっ!?」



 煙が晴れたその先に、エイダンの姿はなかった。



「どこに――」


「烈掌打!」


 いつの間にかシエラの背後に回り込んでいたエイダンに、シエラは強烈な掌底を打ち込まれた。



「きゃあ!」


 シエラは大きく吹っ飛ばされ、ドサッ、と地面に倒れこんだ。


「やりすぎたか……」


 エイダンはそう呟き、遠くに倒れているシエラを憐れむような目で見た後、ケイフウの方を向き、


「ケイフウさん。彼女は立ち上がれないはずです。勝負はもう終わりにしましょう」


 と声を上げた。


「う、うん。そうだね。それじゃあ、この試合は――」


 ケイフウが試合終了を告げようとした、その時。


「ぐっ! げほっ! はあはあ……」


 と、えずきながら、シエラがゆっくりと顔を上げてこう言った。


「まだ……戦えます。まだ……ギブアップは宣言しません」


「ほう」


 エイダンはわずかに顔をゆがめた後、シエラの目の前まで歩いていき、こう語りかけた。


「君は見たこともない魔法を使うし、たしかにそれなりに強い。……だが、まだ青い。オレと君では戦闘経験の差がありすぎるんだ。今の君ではオレには勝てないよ」


「どう……でしょうね。私は……負けるつもりは……ありませんよ」


「無理だ。諦めろ」


「嫌です!」


「こいつ!」


 エイダンはさらに顔をゆがめたが、すぐに表情を抑えると、落ち着いた様子で


「仕方がない。君がそこまで言うなら、完膚なきまでに打ちのめすまでだ」と言い、続けてこう唱えた。


「鍛造せよ! ブラックスミス――大剣炬星!」


 エイダンは、赤みを帯びた大剣をどこからともなく創り出し、その手に握った。

 

 そして、その大剣を大きく掲げ「これで終わりだ」とシエラに告げた。


 それに対して、シエラは全く動じず、エイダンの瞳をじっと見つめた。


 その態度からは、物怖じしているさまは感じられないだろう。


「オレは今からこの大剣を容赦なく振り下ろす。覚悟しろ」


「覚悟はできています」


 シエラは堂々とした調子で答える。


「本当に良いんだな?」


「構いませんよ」


 これっぽっちも怖くないという態度のシエラ。


 むしろ、その顔はどこか笑っているようにも見えた。

 


「…………はあ、やれやれ」


 エイダンは軽くため息をつき、掲げていた大剣をゆっくりと地面に下ろして、こう言った。


「ケイフウさん、ギブアップです。オレの負けです」


「えっ、ああ。エイダンくんがギブアップを宣言したので――シエラくんの勝利!」


「……いいんですか? あのまま戦っていたら、あなたが勝つ可能性もあったのに」


「もうしゃべるな。――それより、これを飲め。回復薬だ」


 エイダンは懐から瓶を取り出すと、シエラに渡した。


「あ、ありがとうございます」


 シエラは瓶を受け取り、すぐさま中身を飲み干した。


「に、にがーい! でも、効くー!」


 シエラは苦みに顔を歪めながらも、痛みや疲労を回復させた。


「立てるか?」


 エイダンはシエラに手を差し伸べた。


「は、はい」


 シエラはその手を借りて、立ち上がった。


 そこにケイフウが駆け寄ってきて「おめでとう! シエラくんの勝ちだ。というわけで、バスタ―バスターへの加入を認めるよ!」と語りかけた。


「ありがとうございます」


「エイダンくんもお疲れ様」


「いえ」


「よーし。それじゃあ、秘密基地に戻ろうか」


「はい」


 シエラたちは横一列に並び、秘密基地に向かって歩き出した。

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