第9話 檻の中
レイグスたちは、劇場の裏の方へ行くと、屈強の男たちを傍に控えさせた女と対面した。彼女は、目元だけ隠したシンプルな白い仮面をつけ、豊満な胸を強調した黒いドレスを着ている。
「レイグス様。先ほどのゲーム、お見事でございました」
ルージュの唇が、妖艶な笑みを作った。ただでさえ花の香りの香水がきついというのに、彼女が笑うとその匂いが強まる感じがする。だがレイグスは不快な感情を表に出さずに、淡々と返事をした。
「どうも」
「まぁ、素っ気ない方ですこと」
女はレイグスを品定めするように見ながら、ねっとりとした声で言う。
「それより双子は?」
女の言葉を切るように問うと、つまらなそうな顔をされる。
「そんなに急かさなくてもなくなったりしませんよ」
嫌にゆったりとした口調で言うと、彼女は自分の体を少しだけよけ、後ろの方を指さした。
「あれですわ」
彼女が指さしたところには、舞台の上にあったときのように檻のなかに子供たちがいた。この場所が恐ろしいのだろう。二人は舞台の上にいたときと同じように、檻の隅で抱き合っていた。
「勝ったのは、レイグス様ですから、お好きにどうぞ」
女はふふふっと笑って私レイグスに檻の鍵を渡すと、踵を返して舞台袖の方へ行ってしまう。オウルス・クロウ側の関係者だろうが、取引まだやっているので、それを見に戻ったのだと思われた。
レイグスが女の背を見送ると、貰った鍵をアレックスに差し出す。
「え?」
戸惑う彼に、レイグスは説明した。
「私が開けるより、君が開けた方がいいんじゃないかと思って。顔見知りなんだろ?」
すると彼は首を横に振った。
「そうだけど……暫く会ってないから分からないと思う」
レイグスはため息を吐いた。
「使えない奴」
「悪かったなっ」
アレックスが頬膨らませてプイっとそっぽを向いている間に、彼女はしゃがんで牢の施錠を外す。そして奥にいる二人が驚かぬようにゆっくりと扉を開け、「怪我はないか?」と声を掛けた。返事はない。だがレイグスは話を続けた。
「私たちのことを怖がっているのは分かる。だが、私たちは君たちの味方で、助けに来たんだ」
返事は、まだない。
「そこで、一刻も早くこの場所を脱出したい。それには君たちが少し私のことを信頼してくれることが必要なんだ。信じることが難しいのは分かる。だが、頼む。君たちを助けたい。だからこの手を取ってくれないか?」
そう言って、レイグスは檻の中に左手を差し出した。最悪、抱えて連れ出すことも可能だが、後々トラウマになってしまうのも困る。そのため、とにかく自主的にこの手を握ってくれることを願った。
「それは……」
すると、兄弟を抱きしめている方の少年の声が聞こえた。緊張のせいか強張っている声に耳を傾ける。
「元の生活に戻れるってことか?」
貴族の子供だったとは思えない口調で彼は尋ねる。レイグスは手はそのままに、アレックスを振り返った。すると彼は首を横に振った。まだ詳しいことは分からないが屋敷も、当主だったこの子達の父親や、母親らは助からなかったのかもしれない。
「すまない。それは……できない」
レイグスははっきりと言った。期待させるような言葉を言うわけにはいかない。
すると彼はレイグスの誘いを突っぱねた。
「だったら、あんたの手を取る意味はない。俺たちのことを助けるって言うんなら、放っておいてくれ」
「……」
レイグスは彼の言っている意味も、そう言ってしまう気持ちも分かった。スイフィアのことだ。彼らの家族を襲い、残酷なことをしたに違いない。帰る場所も失えば、もういやだと嘆く気持ちも、人生を放り投げたくなってしまう思いも分かる。
(だが、私は許さない。例えそれが、私の利己主義だったとしても)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます