人生大方万丈
星埜銀杏
001 生まれ変わる
…――生まれた。私は生まれた。
この地球という星の日本で……。
名古屋に在る、どこぞの病院で。
まあ、でも、そこから己の記憶が在る刻まで、ズズズイッと時間を早送りすれば。
名古屋市の某区に在る保育園に通っていた時まで歳月は進む。
それ以前は、記憶喪失とも言っていいのか、なにも覚えていないのが現状である。
しかも、
その頃の記憶も、実は、たった二つしかなく、砂場での幼虫捕獲事件とスイカゲレンデでアリさんが喜ぶの巻しかないわけだ。無論、この二つの記憶とて曖昧模糊としたものであり、ある種のファンタジーとして記憶しているに過ぎないものとなる。
それでも私の記憶を頼りに書き綴る当エッセイの始まりとしては良いものだろう。
砂場での幼虫捕獲事件は。多分。
では、その事件を語ってゆこう。
「ここ、見て」と男の友達が言う。
砂場で山を作ってトンネル開通に勤しんでいた私は彼を見る。
とても不思議そうな顔つきでだ。
なにさ?
「幼虫だ」
と言われるまでもなく、それを見れば一目で幼虫だと分かるブツが砂場に在った。
彼の手の中に収まっていたのだ。
無論、何の幼虫かは分からない。いや、むしろ幼虫ですらなかったのかもしれない。他のなにかだったのかもしれない。何故ならば、どんな種類の幼虫にしろ、果たして砂場で生息する事が可能なのかという疑問が大人になった私には在るからだ。
だがしかし、記憶を辿れば……、
それは幼虫だったとしか、残っていないわけだ。
そして、
当エッセイは記憶を頼りに書くものであるから、まあ、ここでは何らかの幼虫がいたのだ、という事にしておいて欲しい。そして、幼虫を見つけた子は意気高々に幼虫を掲げあげる。獲ったどぉ、とばかりにも。ほほぅ、と羨ましがる、みんな。
そこで、
「クソが」
と、あまりにも羨まし過ぎた私は……、私も、とばかり砂場を掘り始めたわけだ。
一心不乱に脇目も振らずに、だ。
神さまは私を見捨てなかったのか、……どうやら二匹目のドジョウはいたようだ。
そういたのである。他の幼虫が。
これは、今にして思うのだが、神さまがいて幸運を掴んだのではなく、地獄へと直行するトンネルが開通しただけの話だったと。つまり、砂場で作った山でのトンネル開通が出来なくなったからこそ。……いや、それは、少々、言い過ぎだ。済まぬ。
そして、
目的のブツを手に入れて満面の笑みになる、私。
「俺も獲ったぜ」と、どや顔でだ。
そうなってからは早い。他の子達も、私も、俺も、とばかりに砂場に踏み込み、掘り始める。それは、ゴールドラッシュよろしく、金鉱脈を見つけた山師が鉱夫に頼み、掘りまくるよう、周りにいた保育園児達も続々と幼虫を掘り当ててゆく。
そして、その顔はニコニコの笑顔になってゆく。
笑顔が溢れ、しあわせが蔓延し始める。まるで病気のように。
うむっ。
そうなのだ。そうだ。どうやら掘り過ぎてしまったのだ。しかも、大人数で、だ。
砂場の砂は、ほぼ退散させられ、砂利が見えていた。無論、掘った穴も深くなり過ぎた。誰も砂場から脱出できなくなってしまったのだ。というか、一体、何人が、そのゴールドラッシュに酔ったのか。それすらも覚えていないが……、
ともかく、我らは、そこから出られなくなった。
砂場から。ふむむだ。
マジかなんて今では思うが、それが残っている記憶なわけだ。
確かなる記憶なのだ。
そして、
出られなくなり、焦った皆がパニックになって、
一転し、阿鼻叫喚地獄となったのは言うまでもない。まあ、保育園児だったしな。
それほど深い穴でなくても出られなくはなるだろうし、コマイし、浅はかだから。
その後、
どうなったのかは記憶にない。むしろ砂場から脱出できなくなったという記憶が強烈すぎて他の事は記憶から消え去っているのだ。無論、先にも述べたよう砂場で幼虫が生きられるのかという疑問を考えた時、それは幼虫だったのか? 本当に?
とすらも感じている。
まあ、でも、それが、
当エッセイの輝かしき第一話として生まれ変わったわけだから人生は分からない。
そして当エッセイが生まれた証なのだから、とても興味深い。
兎に角、
それこそ、このお話を信じるか、信じないかは、あなた次第なのである。ふむっ。
チャオ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます