トウモロコシ

 父がガンで死ぬ一ヶ月ぐらい前だったと思う。


「トウモロコシ茹でたからお前も食え」

 ある日、父がそう言って私にトウモロコシを渡してきた。私はトウモロコシはあまり好きではなかったが、父に言われると逆らえずしぶしぶ食べた。

 トウモロコシはいやにたくさんあって、全て食べきれなかった。

「食べにくいからいらない」

 私はそう言って、全てを食べなかった。


 数日後、父は缶詰のトウモロコシを買ってきた。

 またか、と思ってウンザリしたが、なるべく顔に出さないように断ろうとした。

「お前が食べにくいと言ったから買ってきたんだ」

 父はそう言った。だった。

 父はただトウモロコシが好きで、息子と一緒に食べたかっただけだったのだと思う。

 すべては私がただ一言、「いらない」とはっきり言えなかったせいだった。

 私は昔からずっと癇癪持ちの父が恐ろしくて、自分が本当に思ったことを直接口に出して言えなかった。

 結局、最後までこういうすれ違いが続いた。

 

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