菊ミックス
父の亡くなった日の朝、私は母と姉と葬儀場に行って葬儀について説明を受けた。
「お花はどうされますか?」
説明してくれたスタッフが、棺に入れる花を何にするかと尋ねてきた。
他にもいくつか花があったように思うが、私たちはとりあえず菊を選んだ。
「分かりました、菊ミックスですね」
スタッフはそう答えた。これを聞いた姉が笑い出した。
「菊ミックスだって、おかしいね」
まぁ、確かに今からスムージーを作るみたいな言い方ではあったが、なにせ父の葬儀の話をしている最中でさほどおかしいとも思えず、私は笑わなかった。
しかしその後も姉はしばらく隣の母に菊ミックス、菊ミックスと言って笑っていた。
やがて通夜が始まって、他の親族が集まってきたときに、私は先ほどの話をした。
「そういや、さっきスタッフに棺に入れる花を聞かれたときに、菊を混ぜるって意味だと思うけど『菊ミックス』しますか、とか言っててさ……、笑えるよな」
大して面白いとは思っていなかったが、笑うべきところなのだろうと思って適当にそんな冗談を言うと、姉はいきなり態度を翻して、
「何言ってるの、意味わかんない」
まるで自分は関係ないというふうにシラを切った。これにその場に居合わせた親類も皆同調した。
さっき散々笑ってたのはお前だろうに。
そう思ったが、私はその場では怒らなかった。
姉はたぶん、親類の前で自分がそういう目で見られることが嫌だったのだろう。
結局、私一人が父の棺の話で笑っていたことにされてしまった。She threw me under the bus.といったところか。
今までの人生でこういうことが割と何度もあって、私は姉を信頼していない。
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