実話。
中原恵一
実話。
子供の頃
塾に遅れそうになって
中学二年生の頃だったと思う。
一年生のときから近所の英会話学校に通い始め、先生とマンツーマンで英検の勉強をしていた。二人きりだったので緊張したが、先生との相性がよかったのか英語の成績は伸びた。
そんなある日、たまたま授業開始時刻を忘れていて遅刻してしまったことがあった。
時計を見て青ざめた私は家から飛び出すなり全速力で自転車をこいだ。
あまりにも全力で走ったせいで息が上がってしまい、授業中吐き気が収まらなかった。結局トイレに行くと言って教室を出て、便器に向かってこみあげる胃液を吐こうとした。しかし何も出てこなかった。
幸い優しい先生だったので別に特に叱られることもなく、というかむしろ明らかに調子が悪そうな私を心配してくれたのだが、後で振り返るとどうしてここまで焦ってしまったのだろう、と思う。
今まで生きてきて、私は些細なことで実際のその出来事の重大さに不釣り合いなほど圧倒的な恐怖を感じやすい、というのは痛感している。
バスから降りるときにバス券を見つからず取り出せなかっただけで今にも死ぬんじゃないかと思うぐらい心臓がバクバクしたり、たった一つのミスや失言をしただけで何日も、下手すると何週間もショックで何もできなくなってしまったりする。
昨日外出したときもこんなことがあった。
久しぶりに人と会うので目にコンタクトレンズを入れたのだが、向きを反対につけてしまったのか、単純にレンズが古くなっていたのが、左目がとてもぼやけて前がきちんと見えなかった。
この時、私は「自分がこのまま失明するのでは」というすさまじい恐怖を感じ、頭の中がそれだけでいっぱいになってしまって、電車のホームの中をしばらくずっと行ったり来たりしていた。
こういうことをネットで調べると「パニック障害」というのが出る。私の兄弟も似たような症状があって、実際そうなのかと思うときもある。
しかし原因が分かったところで対処できるわけでもなく、精神障害系は見た目が健常者と変わらないので「何大げさなこと言ってんだよ」と一蹴されてしまうのがオチだろう。
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