第6話 悪魔とエルフ
地道に生きていこうと決意した矢先に、危険な目に遭うのは私の運の無さのせいだろうか?
「オオャァァァァァァ!」
「ケシャシャシャシャ!」
「ブオォォォォォォォ!」
「……なんでこうなるんですかね?」
木陰に隠れて必死にモンスターをやり過ごしながら、女神様に問う。
「お、おかしいですね? ここは木漏れ日の森と言われていて、穏やかな森のはずなんですが……」
モンスターがひしめき合っているこの森のどこが、木漏れ日の森なのか?
たくさんの奇っ怪な獣や虫、鳥などのモンスターに辺りがうごめいている。
「明らかに集会みたくなっているんですが……」
集まったモンスターたちが見つめる先には、明らかに雰囲気の違う怪物がいた。
見た目は人間に近いが肌の色はどす黒く、口は裂け、尾は刺々しく、背中からは翼が生えている。
ビジュアルを見るに、元の世界でいうところの悪魔だろうか。
悪魔はモンスターたちに話しかけていた。
「いいか、おまえら。目標はあの町だ。今夜0時に一斉に襲撃する」
「ウオォォォォォォォォォ! ウルスラ様の御心のままに!」
「ウルスラ様万歳!」
「グォォォォォォォ!」
ドオオオオオオォォォォォォォォォ!
モンスターたちの声と一斉に踏みならした足音が、森にこだまする。
「チッ! 静かにしろっていうのに。こんなんで大丈夫かよ?」
悪魔はいらついた様子で舌打ちをしている。
「め、女神様。ど、ど、どうしましょう」
「と、と、とりあえず、町の人たちに知らせた方が」
女神様と小声で通信しながら後ずさりをする。
音を立てないように慎重に、慎重に。
パキッ!
枝が折れるような音が響く。
「っ!!!」
一瞬にして冷や汗が体中の汗腺から吹き出す。
恐る恐る足下を見ると、そこには細い木の枝が……無かった。
どうやら、さっきの音の出どころは私ではないようだった。
「シャアアアアアア!」
右斜め前の茂みに蟲たちが殺到する。
音の出どころは、あそこか。
「……長耳か。捕らえろ」
悪魔が低い声で命じる。
ビシュッ。
茂みから少女が飛び出す。
それと同時に蟲の大群の中から、木のツルのようなものが伸び、少女の手足を拘束する。
「うっ!」
宙づりにされた少女は、ボロボロの姿だった。衣服は汚れ、靴には穴が開き、本来光を放つような金髪だっただろう髪は薄汚れていて、遠い旅をしてきたことが伺えた。
その少女は、薄汚れた衣服とは裏腹に花のように美しい容姿で、特徴的な長い耳をしていた。
元の世界で言うところのエルフという存在だろう。
今は口を一文字に結んで、目の前の悪魔をにらみつけている。
「長耳はもっと北の薄暗い森の中にいると思ったが……俺の記憶違いかな?」
「……」
悪魔はニヤニヤと笑いながら少女に話しかけるが、少女は無言のままだ。
「争いを好まぬ平和の民が、こんな人里近くに何か用かな?」
「……」
「このまま故郷に帰るというのなら見逃してあげるのだが……どうかな?」
「……故郷はもう無い」
「そうだったな! あの陰気くさい森は、我ら魔王軍が真っ先に焼いてしまったのだった! クッハッハッハ!」
悪趣味な笑いをする悪魔。
……私は、思わず拳を堅く握っていた。
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