バツイチ女性恐怖症の僕を助けてくれたのは、元セクシー女優の幼馴染でした。

水卜みう🐤青春リライト発売中❣️

第一部 田舎編

第1話 スマイルレール

(まえがき)


良いなと思ったらレビューの★をくださると嬉しいです!

12月28日に何処かの誰かさんのカクヨムコンテスト8特別賞受賞作

「バンドをクビにされた僕と推しJKの青春リライト」

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ーーーーーーーーーーーーーー以下本編


 東京から秋田新幹線と在来線、そして存続が危ぶまれている第三セクターの鉄道を乗り継いで約6時間。

 僕、高橋たかはし一太郎いちたろうは10数年ぶりにこの田舎町へ帰ってきた。


 稲穂はすっかり実っていて、まもなく収穫を迎える。そんな空気の澄んだ秋の日。


 いつの間にか無人駅になってしまっていた最寄り駅を出ると、おおよそ商店街とは呼べないような寂れた建物の群衆が目に入る。


 駅前にはタクシーすら待っていないので、すぐ近くにあるタクシー会社の事務所まで直接出向く。これも田舎クオリティといったところ。


「すいません、八木田やぎたまで1台お願いしたいんですけど」


 誰も座っていない受付窓口でインターホン代わりの内線電話の受話器を手に取って、僕はタクシーをオーダーする。


 八木田とは僕の実家がある集落の名前。バスが1日2本程度しか来ないような僻地中の僻地なので、こんな感じでタクシーを頼んだほうが手っ取り早い。


 電話をかけて数十秒もすると、「ちょっと待ってねー」と事務所の奥から従業員の人の返事がした。

 こんな高齢化の進んだ田舎にしては珍しく、若そうな人の声。

 それも、どこかで聞いた覚えのある声だった。


「ごめんねー、今運転手がみんな出払ってるからちょっと待っててもらえる?  ……って、あれ? もしかして、一太郎……?」


 事務所の奥から現れたのは、髪を明るく染めていて商売上手そうな笑顔を浮かべる若い女性。東京にいたら、それこそモデルなんかにスカウトされてもおかしくない美人だ。こんな田舎には似つかわしくないと言えば似つかわしくない。


 そして何を隠そうその人は、僕の中学時代の同級生だった桜庭さくらば葉月はづきだった。

 明るくて、元気で、みんなの人気者だった葉月。サラサラのロングヘアが特徴だったそんな彼女が、社会に揉まれたかのように髪を短くしていた。しかもなぜかこんな田舎のタクシー会社で事務をやっている。僕にはそれが不思議で仕方がなかった。


「急に帰ってきてびっくりした……。成人式ぶり? 今まで盆にも正月にも帰って来なかったのに、……親戚でも亡くなった?」


「い、いや、そうじゃないんだ。……ただの出戻り」


「出戻り? でも一太郎、東京で税理士やってるって聞いたけど……」


「まあ……、色々あってね……」


 僕は葉月の質問に端切れ悪く答える。


 東京で色々ありすぎたおかげで、今ここで葉月にすべてを説明するのはさすがに難しい。

 すぐにタクシーもやって来るだろうし、とりあえず簡潔に事実だけを葉月に告げる。


「……離婚、したんだ。だから東京に住むのはもうやめて、今日から実家暮らし」


 葉月はそれを聞いて、悪いことを聞いてしまったと少し申し訳なさそうな顔をする。


「そうだったんだ……。まあ、人生色々あるよね」


 こんなことを言ったら引かれるかなと思っていたけど、葉月は妙に察しが良いというか、幻滅するようなことはしなかった。

 田舎だと未だに離婚に対する偏見が強かったりするだけに、葉月が引かなかっただけでも僕は少し救われた気分になる。


「でも、仕事はどうするの? 税理士なんてこんな田舎じゃ働き口無いでしょ?」


「それは大丈夫。親父の友達に税理士事務所をやってる人がいるんだけど、もう歳も歳だっていうからそこを手伝おうかなって思ってる」


「そうなんだ。やっぱり資格持ってると手に職があるって感じで強いね」


「その分、青春を勉強だけに費やした感じはあるけどね」


 確かに中学のときからガリ勉だったよねと葉月は笑う。


 そんな僕とは対称的に、葉月は青春を謳歌していた。お互い違う高校に進学したのに、桜庭葉月という美人がいるらしいと僕の高校の中でも噂になるぐらいだった。


 僕と葉月はいわゆる、陰キャラと陽キャラってやつだ。

 学生時代だったらスクールカーストが違いすぎて、絶対に相容れないようなそんな存在。


 そんな2人が三十路を迎える歳になって、こんな片田舎で再び出会うこともある。人生とはよくわからないものだ。


「じゃあせっかく再会したわけだし、引っ越しとか終わって落ち着いたらちょっと飲まない? プチ歓迎会的な」


「ま、まあそうだね。それもいいかも」


「それなら連絡先教えてよ。一太郎ったら、中学の同級生の中で未だに番号とか知らないんだよね」


「そ、そうだったかな……、ははは……」


 そうだよと葉月は言って、スマホを取り出しながら僕の隣へと寄ってくる。


 葉月が僕の右隣についたその瞬間、僕の身体は急に強張り始めた。


 ――まずい、血の気が引いて頭が真っ白になりそうだ。


「……ご、ごめん、ちょっと紙とペンを貸してくれるかな。そこに電話番号を書くから」


「えっ? まあ、それでもいいけど……」


 葉月は僕の身に何が起こったのかわからず、ちんぷんかんぷんのまま紙とペンを用意する。

 彼女が隣から離れたおかげで、僕は身体の強張りから開放されて正気に戻った。


「……はい、じゃあこれ、僕の電話番号」


「う、うん。ありがとう。……大丈夫? 具合悪くなった?」


「大丈夫大丈夫、ちょっと長旅だったから疲れが出たんだよ」


「……そっか、じゃあ今日は実家でゆっくり休んでね」


 そうさせてもらうよと僕が言うと、狙いすましたタイミングでタクシーが1台やって来た。

 それに乗った僕は、葉月に手を振って実家へと向かう。


 その車内、僕はさっきのことで葉月が気を悪くしていなければいいけれど、と思っていた。

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