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「中々の出来だろ。材料さえ有れば小学生でも作れる『魔法封印装置』だ。もっとも、俺の息子に、『これを夏休みの自由研究で作ったらどうだ?』って言ったら、秋分の日まで口をきいてくれなくなったけどな」

 人間態に戻ってるが……その人間態ですら喧嘩を売るのは御勘弁と言った外見の「久留米の銀の狼」こと久米銀河は、俺達にそう言った。

 イケメン系のおっさんだ。もし俳優だったら……武闘派系のヤクザの組の組長か若頭副組長を演じたらピッタリだろう。

 なにせ、本当に福岡県を2分するヤクザの片方「安徳グループ」系列の中でも武闘派系の「組」の若頭副組長なんだから。

 俺達は色々と妙なマスクを付けられ、手足をふんじばられて床に転がされていた。

 外見は……顔の前半分をすっぽり覆う防毒マスクだ。

 頬から延びたホースは首の後ろに装着された小型ボンベに繋っている。

 ただし、ボンベの中に入ってるのは酸素なんかじゃなくて、催涙ガスだが……。

 「魔法」ってのは、術者が精神集中を出来ない状態では、基本的に使えない。

 俺達が変な真似をしようとしたのがバレたら、遠隔操作で、催涙ガスがプシュ〜……俺達は目や気道をやられて、精神集中が出来なくなる、って寸法だ。

「オジキ……ウチの組の連中が何人か、こいつにやられてんで……」

 グギッ……。

 久米は、人間態に戻った「中途半端な狼男」の1人の頭を掴んだだけだった……。

 それなのに……そんな気がしただけなのか? それとも……本当に何か嫌な音がしたのか?

「ああああ……」

「あのなぁ……カタギの衆が、ちょっとヤンチャしただけだろ。大目に見てやれよ」

「は……はい……」

 たしか、ヤクザ用語では「目上だが別の組織」の奴を「オジキ」って呼ぶ。

 まずは……このチンケなヤクザどもが対「魔法使い」用の準備をしてる理由は判った。

 俺が、この間、ボコボコにした連中と同じ系列の組の連中だったのだ。

 続いて、「何で、そのチンケなヤクザの組が、あんな高価なモノを持ってたか?」の理由も判った。

 久留米を本拠にしてる「安徳グループ」は熊本県の「龍虎興業」と対立している。

 まぁ、「安徳グループ」は熊本県に、「龍虎興業」は福岡県に進出したがっているせいだ。

 そこで、「安徳グループ」は鹿児島の同業者と手を組んで「龍虎興業」を挟み撃ちにする気らしい。

 クソ……田舎のチンケなヤクザをボコすつもりだったが……何で、その「田舎のチンケなヤクザ」が、真っ向勝負をしたら瞬殺されるような大手同業者の縄張りに事務所を持ってるかを、ちゃんと考えるべきだった。

 「田舎のチンケなヤクザ」のバックには九州トップ3の暴力団の1つが居た訳だ。

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