(3)

 やっちまった。

 どうやら、先天的に「精神操作」系の魔法・超能力が効きにくい奴が一定数居るらしい上に、世界で最初に一般に存在が知られた「異能力」は「おそらくは先天的な精神操作能力」だったせいで、「精神操作」系の異能力は対抗策が研究し尽され、最近では、非「異能力者」でも習得可能な「精神操作系の能力への抵抗訓練」(それもインチキじゃねえヤツ)も普及しつつ有る。

「じゃあ、監視カメラの映像も消しとけ。今日の分、全部な」

 俺は、熊本市内の雑居ビルの一室の「飛ばし」の携帯電話ケータイ屋に「精神操作」を行なって、無料タダで「飛ばし」の携帯電話ケータイを入手した……つもりだった。

「お客さん……不心得は困りますよ」

 だが……俺が店を出ようとした途端……さっきまで俺の四十代のムサい店主は、そう告げた。

「はい、両手を上げて、ゆっくり、こっちを向いて……床に膝を付いて下さい」

 淡々とした口調。

 違法ヤバい稼業には見えねえ、「安いドラマで個人営業の定食屋かラーメン屋の店主を演じてる売れてないコメディアン」と言った外見の小太りのおっちゃんの手には……消音器サプレッサー付の拳銃。

 ちくしょう……。

 しっかり、両手で握ってる。

 どう見ても……「本当に人を撃った」事は、一度や二度じゃないようにしか思えねえ。

 あと……言うまでもなく、手の中に有るのはモデルガンには見えねえ。

「上の階がね……ウチの『親会社』の事務所でして……。もう呼んだんですよ……『応援』を」

「マジかよ……」

 周囲の「気」を探る。

 3人。

 たしかに、何者かが近付いて来てる。

 「気」の量は……平均よりデカい。ただし……「魔法使い」や「超能力者」などの「気」「霊力」を自分の意志でコントロール出来る者に特有の「パターン」は無い。

 ただし……困った事に「妖怪古代種族系」「変身能力者」なんかの「魔法」「超能力」以外の「異能力」を持ってるかまでは……判断不能。

「で、俺は、これから、どうなる? どっかに肉体労働用の奴隷として売り飛ばされるのか?」

「お客さん、話し方が東京弁っぽかね。関東難民?」

「あ……ああ……」

「じゃあ、『本当の関東』に戻ってもらうけん」

 今度は……背後から声。

 二十代か……三十代前半の男。

 ん? ……何かおかしい。

 ……何かアクセントやイントネーションが変だ……。九州弁にの中でも、熊本近辺このあたりより更に訛が強い方言らしいが……。

「え……いや……あっちには……肉体労働用の奴隷を買ってくれそうなヤツなんてロクに……」

「出荷しとっとよ。『正統日本政府』に……『従民サブジェクト』の『材料』……」

 お……おい……冗談じゃねえ。

 正統日本政府は……廃墟と化した「本当の関東」を本拠にしてるテロ組織。

 富士の噴火で消え去った旧政府の後継組織を名乗ってるが……わざわざ「正統」と名乗ってる時点で、自分達と極少数の支持者以外の誰も「本当の日本政府」だと見做してくれてない事を自覚してる連中だ。

 そして、そこが他のテロ組織・犯罪組織に売ってる「人気商品」が「従民サブジェクト」。

 脳改造をして「自由意志」を奪った人間だ。

 柔軟な判断が出来なくなってるので、使い勝手に難が有るが……死ねと言われれば、何の躊躇も無く死ぬ、自爆テロや過労死確実の肉体労働や違法薬物の製造その他「体が有害物質に汚染される事が確実」な作業などの「使い捨て」には最適な「脳改造人間」。

「じゃあ、おっちゃん、眠ってもらうけん」

 今度は……更に若い声。

 だが……いいお報せが1つだけ有る。

 こいつらには……えてない。

 変な「気配」は感じてるだろうが……自分達が優位に立っているとせいで……その「気配」の情報は……表層意識にまで届いていまい。

「ん……あ……あぢッ⁉」

「ぐへっ?」

「な……なんだ……?」

 一応は……元は、「魔法結社」の幹部……その中でも俺は少しばかり特殊だ。

 かつて、俺の所属していた「薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ」は、オーラの「色」とトート・タロットの大アルカナから「魔導師名」を決めていた。

 ところが……俺は、どう云う訳か、生まれ付き2種類の「霊力」を持っていた。

 そして、俺の魔導師名も2つ。「黒檀色の太陽エボニー・サン」と「象牙色の悪魔アイボリー・デビル」。

 霊視能力を持つ者には「黒い炎」に見える「霊力」を使った攻撃を食らった者は……全身に熱さを感じて体にダメージを受け、「白い霧」に見える「霊力」を使った攻撃を食らった者は、意識が朦朧となり、気を失ない……巧くいけば記憶障害や本人には理由不明の精神外傷トラウマその他の「精神へのダメージ」を受ける。

 そして……一応は「これより上は『魔法結社』の創設者の名誉階位か、本当に居るかどうかも判らない『霊界の大師マハトマ』用の階位ぐらい」である「大達人アダプタス・メイジャー」の称号を持つ俺は……「魔法」を発動させるのに、小説投稿サイトに良く有る中学生にしては頭がいい奴が考えたような気障過ぎで逆にダサい呪文も、やたらと時間がかかる身振り手振りも、俗に「魔法の杖」と呼ばれる「焦点具」も不要だ。

 店主と……俺の背後うしろに居た3人の「応援」は次々と倒れ……。

「何だ、こりゃ?」

 どうなってる?

 俺が……振り向くと……そこに居た3人は……。

 3人とも、ほぼ裸の男。……とは言っても、女だろうとゲイの男だろうと「セクシー」だとは思いそうにない「ほぼ裸の男」どもだが……。

 全員が、身に付けてるのは……短パンと……アウトドア用らしいやたらとポケットが多いベストだけ。

 そして、床には……色取り取りの獣毛。

 そいつらは……人間の姿に戻りつつ有る……獣化能力者達だった。

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