第106話 私のヒーロー

 犬好きを公言している私ですが、かつて、一度だけどうにもできない状況に遭いました。


 そう、野犬です。私が小学校低学年の頃は、まだ野犬がうろついていました。


 その時、いつもの片頭痛で早退した私を待ち構えていたかのように、遠くの方から野犬が走ってきます。


 どうしよう? 足がすくんで動けないでいると、シェパード大ほどの野犬が、おそらくよだれだろうと思うのですが、だらだらとたらしています。


 そうして私の前で止まり、行く手を阻まれてしまいました。


 すでに犬の本などで勉強していたので、もし野犬に遭遇したら、背中を向けてはいけないことを知ってはいたのですが、半べそ状態の私は頭から野犬に食べられてしまうー、と恐ろしくてなりません。


 そこに。


 どこからか颯爽と現れた加え煙草のおっちゃんが(まったくの知らない人です)、どうした? と聞いてくれました。


 私の視線の先には野犬。それに気づいたおっちゃんは、私と野犬の間に挟まり、早く帰りな、と私を逃してくれたのでした。


 どこの誰かもいまだにわからないのですが、お礼も言えないまま、その場を走り去って、少しした所で振り返ると、おっちゃんは野犬に通せんぼして、私の方に来ないようにしてくれていました。


 あの時のおっちゃんが、私にとってのヒーローなのです。


 誰にでもヒーローがいると思いますが、おっちゃん、元気だといいなぁ。


 つづく

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