第八話

 冬が来る前に畑を整備する必要があった。水道も引いて、森も開拓し一気に農地を切り開いた。


(長い冬に備えないと)


 そう、シベリアの冬は長い。保存食も作る必要がある。動物も狩って塩漬けで保存する必要がある。もちろん魚もだ。毛皮の服も確保した。そしてなんといってもシチュー。にんじんのあのうまさと来たら。ああ、はやくシチューが食べたい。小麦粉と氷室ひむろに保存した野菜と塩漬けの肉しか入っていないのにあの旨さと来たら。泣きそうになる。母親のシチューの味が恋しい。だめだ、おなかすいた。はっ!! いかんいかん。魔王がこんな体たらくでは。


 「なんか想像してたのと全然違う魔王生活だよな」


 ――魔王様が標準体になればまた変わりますよ。


 こうして短い秋が終わった。と……その時。飢餓感に満ちた腹の肉がざわっとうごめいた。こうして緑色の皮膚の部分は脚以外の部分にまで達した。あまりのおぞましさに思わずサロは三日月の笑みを浮かべる。そうか。飢餓感こそ魔王の原動力か。


 ――いよいよですね。標準体になったらいよいよ部下を持つことになります。もちろん私も本来の姿に戻れます。ただ、この小さな家では大所帯は厳しいかもしれません


「あ……」


 ――小さい魔王城ですが、魔族を増やせば先代の魔王様のお城を復活できます。


「ここはどうするの?」


 ――それなんですがここを「モデルハウス」にしたらいかがでしょうか?


 「モデルハウス?」


 ――魔族の生活はこんなに快適なんだぞという展示場です。人間にもご提供しますよということです


 「そりゃいいや!」


 ――問題は人間が魔族を恐れないようにするにはどうすればいいかってことですが。それと大所帯に備えて洗濯機も作りましょう。凍った水で洗濯するのは難儀でしょうし。


「どうするの?」


 ――銀色の箱を魔素で作ります。次に水車を箱の底に取り付けます。次に水車を回すエネルギーを電線から取り込みます。このボタンで水を流す、このボタンで水を排水する、このボタンで水を回すのです。


 試行錯誤のうち、数日で洗濯機が完成した。


 「毛皮は洗えないけどね」


 ――それもどうにかしましょう。


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