第三話

 樹が床となってない凸凹な場所でろくに寝れるわけが無かった。サロが着ている熊の毛皮が布団代わりになってなければ不眠であった。


 ――お目覚めですか?


 「うん」


 ――早くお城に行きましょう。まず、「飛ぶ」と念じてください。


 本当に念じてみた。するとなんと自分の体がふわっと浮かんだ。


 ――こちらの方向でございます。


 念じるだけですっと空を飛んだ。


 「すごい!!」


 ――魔王様のお力はこんなものではございません。


 飛ぶスピードが速い。まるで自分が鳥になったかのようだ。そのスピードに追い付くこの精霊もすごいと思ったが。それだけではなかった。ちょっとした吹雪ならまったく寒くも痛くもないのだ。サロの躰に雪が当たってもじゅっという音を立てて溶けていくのだ。本当に自分は別の存在になったんだなとサロは身をもって知った。移動距離も人間時代とは比べ物にならない。あちこちの集落を超えていく。そしてここでも気が付いた。自分は人間時代とは比べ物にならないほど視力が向上していることに。まるで流星のごとき姿で自分の傍にいる精霊の力にも驚いたが。おそらく人間の目にはこの精霊は流星にしか見えないだろう。


 しばらくして廃墟を見つけた。速度も自然と落ちてふっと空中にとどまることも出来る。そしてまったく酔いを感じない。すごい。精霊もふっと空中に止まった。


 ――これが初代魔王の魔王城です


 見事に土台しか残っていなかった。


 ――降りてみましょう


 降りると城下町らしきものが……ない。


 「ねえ、このお城城下町みたいなのがないよ?」


 ――ありません。魔王城内に町が形成されたようなものです。


 ――様々なデストラップがあって侵入者を殺します。もちろん軍隊の進撃も防げます。


 ――初代魔王は最後爆発で勇者らを巻き添えにしようとしたのです。でも勇者は見事に城から脱出しました。


 「次のお城も見てみたい」


 ――それでは次のお城にも行きますか。


 ――こちらの方向でございます。


 しばらく飛んで次の城に来た。


 「こっちはわずかながらに城下町がある」


 ――ええ。


 「なんか管のようなものがあるね」


 ――それは水道管、ガス管、電気管です。


 「水道? ガス? 電気?」


 ――先代の魔王が魔力を使って作ったものです。


 「お城は小さいね。まるでお屋敷みたい」


 ――ええ、引きこもることが目的ですから。


 ――降りてみましょう。


 ふっと降りることが出来た。


 ――いかがですか? 貴方様のお力でしたら数日でこの程度のお城でしたらすぐに作れます。ちなみに菜園に農場もございます。


 「水道? ガス? 電気? どうやって作ったの?」


 ――近所のガス田から引いたのです。


 「ガス田?」


 ――行ってみます? こちらの方向でございます。


 しばらくすると炎が見えてきた。


 「すごい!!」


 「勝手に燃えてる」


 ――そうです。人間はここを地獄の入り口と呼びます。ここにある燃える空気を管で運んだのです


 「僕にも出来るの?」


 ――今はまだ難しいです。


 「そっかー」


 ――いかがですか? どちらの魔王城を再建しますか?


 「両方」


 ――さすが偉大なるお方。承知しました。


 「でもその前に自分の住む家が欲しい」


 ――承知しました。今日も遅いですから昨日も居た洞窟に戻りましょうか?


 サロは洞窟に戻ると倒れるように寝込んだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る