スムージー作りには、耳栓が欠かせない。

 スーパーマーケットに足を踏み入れた途端、沢山の声が聴こえてくる。

 それは、何も人間の声だけではない。数多くの食材の声も聴こえてくる。

 食材の声が聴こえる特殊能力の所為だ。私にとっては慣れたもの。


 今日の目当ては、甘蕉と林檎。

 そしてほうれん草だ。

「は、初めまして!」

 ほうれん草コーナーに行くと、決まって自己紹介が始まる。

「ぼく、ほうれん草です! 栄養満点、萎びてなくて、シャキシャキです! 美味しく頂けます!」

「……」

 本当に?と訝しむと、ほうれん草も躍起になる。

「日本一美味しいこと、証明してみせますから!」

「……よーし」

 彼を選んであげると、「ありがとうございますっ!」と感謝される。

 如何にも彼等食材は、人間の手により丁重に扱われ優しく食べられ天上へ行ける――と思っている様で。事実、取り残された側から祝福と餞の言葉が贈られている。

 私は憂鬱に溜息を吐いた。

 こんな出送り方をされると困る。


 健康スムージーの為に乱雑にミキサーで破砕される時の絶望が深くなるから。

 その時の怒りと痛みの絶叫ったら、聞いていられないのだ。

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