陰陽霊機 〜最強女陰陽師は転生して最強ロボットと共に無双する〜

藤平クレハル

プロローグ 女陰陽師は、もう一度目指す

 ――――物心ついた頃からアタシは最強だった。


 陰陽術、その中でも特に霊魂と式神を操る能力に長けていたアタシは、周囲の大人を一蹴し、国にも認められる程の実力を持っていた。


 あらゆる知識を修め、存在するすべての術式を極めた。果ては新たな術の創造すら行い、この世のルールにすら触れることができた。並ぶもの無しと称されるほどの腕前へと至ったのだ。


 その腕前を生かして、多くの人に求められるまま働いた。


 近所の子どもに頼まれて母親の病気を治した。


 町を襲う魔物を追い払って結界を張った。


 一族存続の為に代表としてライバルを打ち倒した。


 国を覆す陰謀を止めて、暗躍していた組織を滅ぼした。


 挙句の果てには、大勢に担ぎ上げられて一つの国を支配するまでに至った。


 けれどまあ、人の情というのは怖いもので。


 アタシは、愛する人にあっさりと寝首を掻かれて死んでしまった。その人はアタシが殺した誰かの縁者だったらしい。なにせ恨みを買ってばかりの人生だったし、仕方がないのかもしれない。


 最強の陰陽師は、術士同士の殺し合いや戦争によってではなく、ちっぽけな短刀の一刺しで命を失ったのだ。


 ―――許せない。


 いやまあ、アタシを殺した男には、死ぬ寸前に末代まで苦しむような呪いをかけてやったから、そこに未練はない。


 心残りだったのは、なぜ『最強』のアタシが負けなければならなかったのか。みんなの為に頑張ったのに、どうして殺されないといけない。それに万に一つでも負けてしまうことがある存在を『最強』とは呼べない。だってそう呼ばれるからには “最も強く” ないといけないのだから。


 そして真に “最も強い” ならば、誰かに利用されるのではなく、自分の意志で、己のために戦えるはずだ。


 だから、やるべきことは決まっていた。


 死ぬ間際に行使したもう一つの術式。


 それは来世への転生だ。


 来世でこそアタシは真の『最強』を目指す。今度こそ、誰にも負けない、奪われない、全てを圧倒する唯一絶対の自由な存在になってみせる!!


 だから困った。


 己の気力と肉体のみで成り上がれる来世を期待していたのだが、あいも変わらず自分は女だし、それに加えて―――


 ゴウッと、乱暴に攪拌された空気の渦が頭上で逆巻く。


 物思いにふけるのを中断して見上げた先では、鋼鉄の巨体が飛翔している。


 ただの航空機や戦闘機なら、前世においても、先の時代においてではあるものの存在していた。


 だが、“アレ” は違う。彼方の現実ではあり得なかった、御伽噺フィクションの中の存在。


 遠くで、別の巨体が咆哮した。


 それを受けて、真上を飛んでいた鋼鉄の塊がかすかに揺らいだかと思えば、空中で爆発四散した。


 そう。この新たな世界におけるいくさの主役は生身の人間ではないのだ。おおよその場合、戦力の優劣は “アレ” で決まる。


「……いいわ、だったら手に入れてやろうじゃない! 真の『最強』になるために!!」


 焼けた金属の雨が降り注ぐ中、決意の声を響き渡らせる。そして、それをかき消すように、眼前のビルを崩壊させながら鋼の巨体、WDウェポンドールと呼ばれる人型兵器ロボットが降り立った。

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