第4話 どうやら弱点がないようです
「すぅ……」
セシリアが深い眠りについて、私はそっと彼女の握る手を離しました。
彼女の寝顔はとても落ち着いていて、私は安堵します。
ベッドから立ち上がって、私はカーテンで遮られた日の光の方に視線を送りました。
「家の中にいるうちは、特には問題なさそうですが……」
私自身がアンデッドになってしまうとは思ってもいなかったので正直、日の光を浴びたアンデッドがどういう感覚になるのか、興味はあります。
どんな姿をしているか、そもそも分かってもいないのですが、目先ですぐに確認できることがあるのなら、今のうちにできることはしておきたい気がしました。
きっと、セシリアが起きていたら、私が日の光を浴びることを絶対に拒むでしょうし。
私はセシリアに光が届かないように気を付けながら、カーテンをゆっくりと捲りました。
ずっと地下室にいたからでしょうか――太陽の光はとても眩しく見えました。
私の身体に直接、太陽の光が届きます。
やはり、肌色はとても白くなって、血行は悪くなっているように見えました。
「でも、何ともないですね……?」
気だるくなるとか、意識が遠くなるとか、そういう感覚になるのかと思っていたのですが、今の私には特に違和感はありません。
すでに死んでいる状態の私ですが、『感覚』はそのままに残っているようでした。
おそらくは、セシリアの死霊術がそれだけ優れたものなのでしょう――それならば、彼女の魔法が優れているから、私はアンデッドになっても太陽の光を受けても問題がないのでしょうか。
……いえ、彼女も確かに『光に弱い』と言っていました。
私とて、アンデッドになった以上は例外ではないはずです。それならば、今の私は気付かない間に弱っている、ということでしょうか。
しばらく太陽の光を浴び続けましたが、私の身体にも、感覚的にも異常は全く見られません。
「どういうことでしょう……?」
理由は分かりませんが、推測は出来ます。
アンデッドは光に弱く、魔法においても『光属性』に該当するものが弱点になります。
けれど、聖女と呼ばれた私が該当する魔法の力は、ほとんどが光によるものです。
もちろん、光魔法が得意だからと言って、それだけでアンデッドが光に強くなるわけではないでしょう。
過去にも、そう言う事例はあったはずです。
唯一――特別な点を上げるとすれば、私が聖女と呼ばれる存在であること、でしょうか。
常人とは異なるレベルの力を、たまたま身に宿してしまっただけなのですが、私のような者がアンデッドになった、という事例は果たして存在するのでしょうか。
「弱点を克服したアンデッドになった……?」
私は自分で口にした言葉に困惑しつつも、その結論に至りました。
もちろん、光を浴びて異常がないくらいで、全ての弱点を克服したとは言えないでしょう。
けれど、今後の生活において足枷となる朝方や昼時の屋外行動も、問題なくできるのであれば、これは大きな違いです。
――確かめるなら、もう一つ進んでみましょうか。
「ふぅ……」
私は小さく息を吐き出し、魔力を練り上げます。掌に集中させた魔力によって、一つの魔法を構成させました。
『浄化』――アンデッドの肉体に残る未練の強い魂を、解放する魔法。アンデッドに対してもっとも有効とされる魔法であり、特に魔力の強い者が使うことで大きな効果を発揮します。
私は聖女と呼ばれるのに、魔力の質が通常の人と異なる、という点が挙げられます。
私が使う浄化の魔法は、アンデッドの最高位と呼ばれる『リッチ』にすら有効であると、魔法の研究者達は言っていました。
セシリアが私をそのレベルのアンデッドにしてくれた、とはさすがに思えません。
つまり、私の魔法であれば、私の魂は簡単に消滅することになる――思えば、これはとんでもなく危険を伴う行為でした。
様子を見ながら、少しずつ試すつもりだったのですが、あまりに私の身体に異変が起こらないために、全力で浄化の魔法を使用します。
けれど、私には全く効きません。決して、浄化の魔法が自分自身に効果がない、というわけではなく――私には、浄化の魔法そのものが効かないのです。
これはつまり、はっきりと言い切ってもいいでしょう。
「アンデッドの弱点……完全に克服していますね……?」
不死の魔物であるアンデッド――彼らにとって、光はなにより忌むべきモノでしょう。
けれど、元聖女である私がアンデッドになると、どうやらそんな弱点も存在しなくなるようです。
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