第1話 【エピローグ】

 ミクドラムには大きな港がある。ここでは交易品が、昼夜問わず入れ替わり立ち代わり運ばれ運び入れられる。そのため夜通し働くものや、日雇いのために、簡易な宿が多くたち並んでいる地域だ。


 サックは、その宿の一つにチェックインした。

 宿に向かう途中、夜勤の人向けの夜食販売の出店を見つけ、ローストビーフのサンドイッチを購入していた。


「……む、思ったより固いな」


『目利き』を使って、サックは一番「おいしくない」物を選んだ。夜勤であくせく働く者たちの、些細な幸せをあまり横取りしたくないという気持ちもあり、謙遜した結果だったが。


「水も一緒に買っておいてよかった」


 皮の袋に水を貯めてもらっていた。これが無ければ飲み込めなかったかもしれない。


「さて、と」


 サックは一気にサンドイッチをほおばり、3階建ての宿の最上階、3階の窓から、外を眺めた。


「燃えてるなあ……」


 もう少しで日の出ではあるが、それにしては外が明るい。

 それもそのはず、遠くで大きな屋敷が燃えているのだ。


「葉っぱは燃やすとガスが出るからな。『うまのふん』を潜在解放させて、全部腐らせて堆肥にしておいて、正解だった」


 あのお茶の葉をそのままにしておいたら、この火事で風下の人間たちが大変なことになっていただろう。

 咄嗟の思い付き(イタズラ)が、功を奏した。


「……」


 この火事。誰かが屋敷に火を放ったのだろうか。

 自暴自棄になり、自殺を図ったか。

 全てを消してしまいたかったのか。


 その辺の事情は、もう、誰も知る由もない。


「……もったいない、おっぱいだった……」


 サックは改めて『女運の無さ』に愕然とした。


 そして、


「復讐……か」


 大きなあくびとともに独り言。

 と同時に、『復讐』について考え始めた。


 元々、復讐なんて行っても、失ったものは何も戻ってこない。

 ただ虚しいだけだ、などという思考であった。


 が、今回の一件で、復讐の考え方を改めることとしたのだ。

 復讐で、相手に同じかそれ以上の屈辱を与えられれば。

 どれだけ、ココロが清々しうるだろう。

 最高の自己満足じゃないか。

 最悪ぶん殴るだけでも。

 幾分、気は晴れる。


「……」


 きしむ安物ベッドに横たえながら、サックは、この旅の目標を修正した。

 単に田舎に帰って、能力を使ったスローライフを願っていたが、それは辞めだ。


「折角だし、やってみるか!」


 右手を天井に突き出し、中指を天に向けて突き立てた。相手を最高に侮辱するハンドサインだ。


「こんな能力付けて、貧乏くじ引かせやがって……『復讐』してやるよ! 待ってろ! あのクソ『女神』!」

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