アイドルオタクの俺が江戸時代に転生したら、推しメンが花魁になっていた件
@iwasakitukuru
第1話 転生、そして再会
俺の名前は山口聡(ヤマグチサトシ)、21歳、長崎のFランに通う大学生。
いちおう文学部歴史学科。
いちおう彼女なし、童貞。
これまでの人生、流れに身を任せていたら今に至った。
そんな俺にもたった一つだけ熱中したものがある。
アイドルグループ『46project』、推しメンは一ノ瀬志帆(イチノセシホ)、通称しほりん。
しほりんの活動、それを見守ることが唯一の生きがいと言っても良かった。
しほりんを推していられるなら、就職とか彼女とかどうでもいいや。
しがない田舎暮らしだったけど、そこそこ満足してた。
でも、神様は平等じゃない。
今、俺は交差点にいる。
視界には澄み切った青空。
遠くから聞こえてくるサイレン。
頭に触れると赤黒くベトベトとしたものが手についた。
段々と大きくなっていたサイレンが急に細く小さくなる。
視界が眩い白に染まり何も見えなくなった。
あらら、俺、死んじゃったわ。
死ぬという感覚は思っていたより苦しくはなく、深い眠りに落ちていくようだった。
俺は目を覚ました。
これが極楽浄土か?
布団から起き上がると横から女の声がした。
「旦那様、起きなさったとね」
「ほー、これが天女様か。時代劇の遊女みたいな格好してんな」
「旦那様ったら、おかしかことばゆうて、わっちはれっきとした遊女たい」
「ん?」
「わっちば昨晩抱きなさったとは旦那様たい!」
俺が抱いた?
記憶にない。
生まれたままの女性の姿は画面上でしか見たことがない。
「そんなことより旦那様。今日は花魁道中のあるとよ。もうすぐ目の前の道ば通るけん、見ていかんね」
花魁道中
客から人気があり、揚げ代の高い遊女を花魁という、その花魁の中でも一握りにだけ許された儀式、花魁が店の者たちをたくさん引き連れて客の部屋へ向かうというアレか。
いちおう文学部歴史学科の俺だ。見物しよう。
俺は部屋の障子窓を開け、格子の間から身を乗り出した。
俺が昨晩抱いたらしい遊女も俺の横にひょこっと顔を出してきた。
すると遠くの方から太鼓、笛、鈴などが入り混じった囃子が聞こえてきた。
「そこの角ば曲がって来なさるよ」
しばらくすると店の通りの左側に面する角から鈴が先端についた棒を持つ男が現れた。
続いて男が二人。
それに続き、8歳から9歳くらいに見える女の子が二人。
一人は太鼓を叩き、もう一人は笛を吹いている。
次に現れた男は傘を持っている。
その直後
高下駄を履き、鮮やかな紅と金の着物を着た女が現れた。
気品と余裕を感じさせる立ち姿と足運び。
この女が花魁で間違いない。
俺は確信した。
俺はキラキラとした目を花魁に向けている横の遊女に聞いた。
「おい、あの花魁の名前は何だ?」
「あのお方は筑後屋の玻璃(ハリ)太夫よ」
すると趣のある囃子の音色をかき消すように俺の声がこだまする。
「玻璃ちゃーん!!!」
つい俺のドルオタとしての血が騒いでしまった。
花魁道中の一行は特に俺を気に留めた様子はなかった。
だがその玻璃という花魁だけが俺の方に顔を向けた。
そして吸い込まれるような微笑みを俺に投げた。
それはずっと俺が追い求めていたもの。
俺の青春。
俺の生きがい。
俺の推し。
「しほりん……だよな……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます