葉月家は日常系!!じゃない!?

見る専のある

第1話 葉月家は普通じゃない

 普通の国の、ごく普通の住宅街に住む、ごく普通の一家「葉月はづき家」。

 これは普通に見えて全く普通じゃない、そんな一家のお話。

 朝5時。

 いつもの時間にアラームもなく二人の兄弟は目を覚ます。

 弟は向かいのベッドで寝る兄を見て言った。

「僕の勝ちだ!!」

 この二人は毎朝どちらが先に起きるか競っているのだ。

 先に起きた弟はこの一家の末っ子の「てる」小学5年生。

 輝の声で起きた兄は次男の「けい」小学6年生。

 2人は競うように着替え、部屋を飛び出しリビングに向かいテレビのリモコンを奪い合う。

 勝者は圭だった。

「俺の勝ちー!!」

 圭は輝を煽るように言った。

 朝一でテレビリモコンを取れば朝の時間は好きなチャンネルを見れるという暗黙のルールなのだ。

 圭は録画しておいたロボットもののアニメを見始める。

 そんな二人の足音と声で部屋から出てきたのは二人の祖父にあたる「みのる」。

とはいえ、祖父と言うにはあまりにも若い見た目をしており、見た目だけの話をするならば40代ほどでとても若く見える。

はんてんを着ており服装だけ見ればおじいちゃんだ。

実はあくびをしながら寝巻姿で出てくるとキッチンでお湯を沸かし始めお茶を飲む。

次に起きてきたのは制服姿の長男、高校1年生の「こう」だ。

「お前ら朝からうるさい。」

 晃はリビングに来るや否や2人にげんこつをお見舞いした。

「朝一番にそれ!?」

「いや!輝だけだし!!」

 イテテと頭を抑えながら輝はツッコみ、圭は輝になすりつける。

「ふたりともだ。って母さんと神楽は?」

「まだねてるー」

 圭と輝は声を合わせていった。

 晃はため息をつき母親と妹を起こしに行くために2階へ戻ると母親の部屋に向かいノックもせずに扉を開けた。

 すると、ベッドではなく床で寝ている母親を見つける。

「母さん!?」

 倒れたのかと思い急いで近づき体を起こすと、すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てていた。

 それをみた晃は呆れてそのまま起こした母親の体から手を放し、床に落とした。

「いっっ!!!なにすんのよ!?」

 頭が床にぶつかった痛みで一気に目が覚め、床に体をぶつけた痛みと安眠を妨害されたのが気に食わなかったのか少しキレ気味で言った。

彼女が晃たち兄弟の母親である「神代かみよ」だ。

高校生の子供がいるとあって年齢は40代だが、実同様20代に見える見た目をしている。

「起きろって。」

「あ、晃?今何時?」

「6時半。今日中等部の入学式だから早く起こしてって言ったの、母さんだろ?」

 晃はため息をつく。

「そうやん!!あの子は?」

「今から起こす。」

「頼んだ!!」

神代はグッ‼と親指を立てて言った。


 晃は神代が動き出したのを確認すると最後に残った妹を起こしに行く。

今度はきちんとノックをするが、思った通り返事はない。

部屋に入ると、ベッドにはこれまた良い夢を見ているのか笑顔ですやすやと寝息を立てた妹、中学1年生の「神楽かぐら」がいた。

「かぐ!起きろって!今日入学式だろ?おーきーろー!」

 晃は神楽の身体をゆらし起こそうとする。

 その瞬間、

「んーやだー」

 晃は蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 晃がぶつかった壁は凹んでいた。神楽の蹴りは常人にはありえないパワーと速度であり、それの力を寝ぼけて出すというのがさらに人間離れしていた。

「痛った…骨折れるわ…」

 その音で実が階段を駆け上がってくる。

 衝撃で凹んだ壁に寄りかかった晃を見て察したのか、実は何も言わずに晃の背中に手をかざす。

 すると晃の背中の痛みは嘘のように引いていった。

「ありがと、おじい」

 実は頷く。

「晃、大丈夫?」

 さっきと違いきちっとしたスーツ姿の神代が部屋を覗き込むと、凹んだ壁を見て落胆した。

「また、壊したの…先週もリビングのガラス、割ったばっかりなのに…」

 神代はわが子の心配よりも建物の心配をしていた。

「じゃあ、母さんが起こせばいいじゃんか!神楽の不意打ち避けれるわけ無いだろ!」

 神代はため息をつきながら晃と同じように神楽を揺すって起こす。

 その瞬間、先程晃が受けたその蹴りが飛んでくる。

 がしかし、神代はそれをいともたやすく手の甲で受け止めた。

 常人なら手を骨折しかねないほど強力な蹴りを、当たり前のように止めた。

「ったく、全然起きないし!

 晃も!これくらい受け止めるか避けるかしなさいよ!」

「無茶言うな!母さんみたいなゴリラ人間じゃないんだよ!」

「誰がゴリラ人間だ!」

 神代と晃が言い合っていると実が無言で二人の間に立ち、喧嘩を止めに入る。

 それを見た二人は冷静になったのか言い合いをやめ、ここまで騒いでも起きない神楽を見てため息をつく。

「まぁ、かぐ《神楽》はお迎えがきたら起きるでしょ」

「だな。」


 3人は神楽を起こすことを諦め、リビングに戻り朝食の準備を始める。

神代は朝食の準備をし、晃は長男らしく当たり前のようにそれを手伝い、実はおじいちゃんらしくお茶を飲みほっとしている。

ごく普通の家庭だ。

だが、そんな普通は一瞬で壊れる。

「ちょっと、圭にぃ!僕のリモコン取らないでよ!!」

「はぁ?俺が朝一番に取ったんだから俺のものだ!」

圭と輝の兄弟喧嘩が始まった。

他の三人はいつものことだからと特に止めようとはしない。

だが喧嘩はどんどんヒートアップしていく。

「おい!輝!リモコン返さないならこうだ!」

そう言って圭は力任せに輝に殴りかかる。

輝はわかっていたかのように座っていたソファーから逃げる。

結果、先程まで輝が座っていたソファーは圭の拳に耐えられず大きな穴ができていた。

「ったくもう!いいかげんにしなさい!!!」

家具を壊され耐えかねた神代がは喧嘩両成敗とばかりに2人にげんこつを御見舞する。

「先々週も壁壊して、先週はガラス割って、物壊しすぎでしょ!いくらかかると思ってるの!!

力は加減しなさいって言ってるでしょ!」

神代が2人に怒鳴り、実はうんうんと頷く。

「でも…」

ふたりが言い訳をしようとするが、神代が笑顔で壊れたソファーを掴みフレームがバキバキと割れていく音がすると2人は怖くなったのか怯え始める。

そのタイミングでインターホンが鳴る。

神代は急いでモニターを確認するとそこには見慣れた顔が写っており、急いで玄関を開ける。

そこには中学の制服を着た少女が立っていた。

「おはよ、光神ちゃん。いつもお迎えありがとう。」

「おはようございます!かぐ、迎えに来ました!」

彼女は中学1年生の光神みかみ、神楽の幼なじみで同級生だ。

昔から毎日家まで迎えに来ているのだ。

「本当に助かるわー!あの子まだ寝てて…

 起こしてあげてくれない?」

「わかりました!おじゃまします!」

神楽が寝ぼけて暴れるのはなぜか家族に対してだけなのだ。

そのため、よく光神に起こしてもらっている。

光神はいつもどおり、玄関に荷物を起き神楽を起こしにいく。

光神は神楽の部屋に行く道中、荷物を置きに入ったリビングのソファーが一瞬元の形が分からないほどに崩れていたのに気が付きびっくりするが声には出さなかった。

その間に神代と晃は朝食の準備を終え、圭と輝は全員が揃うのを待たずに食べ始める。


 一方神楽は光神の声でやっと起き、急いで支度を始める。

神楽を起こし、リビングに戻ってきた光神に神代は聞く。

「光神ちゃん、朝ごはんは?」

「食べました!」

「そう、今日は時間もなさそうだし迎え呼んでおいたから一緒に乗っていって。」

「わかりました。ありがとうございます!」

 すると、制服姿の神楽が部屋から出てくる。

「かぐ!もう時間ないよ!迎えの車に朝食用意してもらってるから車で食べな!」

 神楽は眠い目をこすりながら返事をし支度を進める。


そして、晃、圭、輝の3人は早々に朝食を終わらせ出かけていく。

しばらくするとインターホンが鳴る。

神代はモニターを確認し外に出ると燕尾服を着た、誰がどう見ても執事と分かる身なりの老人がいた。

「おはようございます。神代様。

ご連絡通り、神楽様と光神様のお迎えに上がりました。」

「ありがとう。二人を送ったら予定通り、陛下を迎えに来てほしいんだけど。」

「かしこまりました。」

すると支度を終えた神楽と光神が階段を駆け下りてくる。

「あ、おはようございます!伊藤さん!よろしくお願いします!」

「神楽様、光神様おはようございます。

車内に朝食も用意しておりますのでどうぞお乗りください。」

伊藤と呼ばれた執事は2人の荷物を預かり2人を車へと案内する。

2人はいってきますと言って車に乗り学校に向かった。


「さてと、こっちも支度しますか。」

神代は朝散らかったリビングを片付け始める。

「ちょっとおじぃ、そこ邪魔。あと動け。支度しろ。」

のんびりお茶を飲む実を退かしながら掃除をしゴミをまとめ、途中になっていた身支度を整える。

実は神代の毒舌に『老人を労われ』と目で訴えているかのように不満げに神代を見ながら渋々移動する。

そしてまたインターホンが鳴る。

「神代様。陛下のお迎えに上がりました。」

「何度もありがとう。」

それは先ほどの執事だった。

本来は陛下と呼ばれた人専属の執事なのだが、神代の要望に応え神楽たちの送迎を手配してくれたのだ。

インターホンの音が聞こえた実がいそいそとリビングから出てくる。

実はそのまま車に乗り込む。もちろんなんの身支度せず、寝間着にはんてん姿のまま。


陛下とは実のことである。

この国「四葉よつば国」の国王こそ葉月実であり、一見ごく一般的な家庭に見えるの葉月家は王族なのだ。


「神代様はよろしいので?」

執事が聞いた。

「私はちょっと学園に寄るので」

「かしこまりました。」

神代の返事を聞いた執事は静かに玄関を閉めていった。


そして車がいなくなったのを見ると神代は自室へ戻り支度を始める。

鏡を見ながらスーツを整え、腰にはパッと見気付かないようなガンベルトを巻き、白に金のデザインが入った特注の拳銃を2丁収め、耳にはイヤホン型の通信機をつける。

そしてリュックには仕事に使うものを詰め込み部屋を出る。

スーツにリュックというその姿だけ見れば、比較的低めな身長と相まってどこかの新入社員と間違われるだろう。

家の鍵を閉めると神代は通信機をつけ、連絡を入れる。

「葉月神代、四葉本部長の権限において能力の使用を申請。」

 すると通信機からは機械的な音声で「許可します」とだけ返ってくる。

「さてと、んじゃ行きますか。」

神代は庭に出ると2回ほど地面を蹴る。

すると神代の体は浮いていた。というか飛んでいた。

まるで風に包まれているかのように、重力を無視しているかのように軽々と神代の体は浮かんでいた。

神代はそのまま飛んで職場に向かう。


葉月家は王族である。

この世界において王族や貴族には一般人にはないあるものが1つある。

それが「能力」だ。

空を飛んだり、炎や水など自然を操ったり、時には人の怪我を治し、未来や過去を見る。

そんな人間離れした様々な能力が存在している。

この世界では能力を持つのは総人口の5%程度。

そして、彼らを束ね、管理し、仕事を斡旋する世界的機関こそが神代の職場である「騎士団きしだん」だ。


葉月神代は母親であり、王族、それも王位継承権第一位であり、同時に騎士団という国際機関の四葉国における最高責任者四葉本部長だ。

そしてその騎士団において、ひいてはこの世界において事実上の「世界最強の能力者」である。




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