第10話 急展開


 4月11日09:05

 木村理玖の母親の異常さにビビり、下級生に有名なところも納得した。


(ヤバいよ…こんな親だったら学校中で有名だろうし、それに俺のこと絶対恨んでるでしょ…。向こうから連絡無い方が逆に怖いんですけど。)


(それに金持ちって話もあるし、なおさら賠償金目当てじゃない裁判起こされそうやん…。)


 警察署長さんの民事にならないかも、という推測を鵜呑みにして安心しきっていた。

 また悪い状況になりそうで、嫌な冷や汗をかいていた。


(うぅ…。また面倒そうなのが残っとる…。待ちの時間なのは変わらないけど、心持ちの問題が…。………シャワー浴びるか…。)


 着替えのTシャツを持ってユニットバスに入る。着ていたTシャツとパンツは石鹸で手洗いする。


(結構手洗いって楽だな…。シャツとパンツだけだからそんなに時間もかからないし。これが夏だったらもう少ししっかり洗わないといけないんだろけど。)


 石鹸を軽く擦り付けて、あとはゴシゴシするだけ。汗もそんなにかいてないので、水が汚れたりすることもない。


 しっかり水を切って、部屋から持ってきたハンガーに掛ける。誰が使ったかも分からないハンガーでパンツを干すのは嫌なので、ハンガーは既に石鹸で洗ってある。


 洗濯を終わらせてシャワーを浴びる。湯船に浸かりたくなる病を発症するかと思っていたけど、意外とそうでもなかった。


(湯船に入りたくなるのは、年取ってからなんかな…。今までは普通に入ってたけど、無ければ無いで別に問題ねぇや。)


 そんなことを考えていたからか、頭をガシガシ拭いたからか、入る前にあんだけビビっていたのが、すっかり飛んでいた。


(別に訴えられたからって死ぬ訳じゃねぇし。社会的にはもう既に瀕死だし、今からウダウダ言ってても疲れるだけじゃね?)


 またまた開き直って、同じ味の2周目になったエネルギーバーをゼリー飲料と一緒に流し込んだ。


(はぁーめんどいめんどい、こういう時は寝るに限るね…。)


 と微妙に半乾きな頭でベッドに飛び込んだ。


 *****


 4月12日11:40

 昼前まで惰眠を貪っていた俺は、この日もまたダラダラ過ごそうとしていた。便座に座ってスマホを見ている。


(そういえば、今日の17時から告別式か…まぁ関係ねぇし、また寝るか。)


 大して眠くも…いやかけらも眠くなかったけど、実は眠って起きると時間が進んでいる感覚に少しハマって、寝るのが癖になってきた。


 ***


 4月12日19:40

 気持ちよく惰眠を貪っているところに、また警察から電話が掛かってきた。


『もしもし、西木さんの携帯でよろしいでしょうか?』


 と聞き覚えのある声がスマホから聞こえてきた。


「はい、西木です。署長さん?」


『おぉよかった。西木さん、今日お相手さんの告別式でしたけど、その後の火葬で問題が起きましてね。』


「問題?火葬場が火事とか?」


『いやいや、そんなもんではなくてですね。なんとご遺体が燃やせなかったんですよ!棺とか副葬品は燃えてるのに、遺体だけそのまま残ったんです!』


「はぁ?…いやでもメス刺さらないって話でしたし、燃えなくても別に不思議じゃないのでは?」


『あー、いや確かにそうですな。その通りです。その通りなんですが、その後にもまた問題がね…』


「これ以外にもまだ問題があるんですか?」


『お相手のご両親…と言っても特に母親がね、告別式の段階でかなり憔悴していた様でしてね、そこまでは普通なんですが、いざ火葬をしても遺体が残ったことでね、「私の子は神の子だ!」と一転、喜びだしたようなんです。』


「あー、かなり過保護だったようですね。別に喜ぶのは問題無いのでは?」


『そうみたいですねぇ…。ただ、ここからが問題でして、初めは喜んでいたんですが、次第に怒り出してですね。「神の子を殺した奴がまだ生きている」と言い出したらしいんですよ。』


(うわぁぁ…。まさか復讐とか言い出さねぇよな?)


『周りの関係者達も同調してですね…』


 生唾をゴクリと飲み込む。


『遺体を引き取ってから「裁きを下す必要がある!」と息巻いて出ていったようなんです。』


「…それで、その情報はいつのものなんですか?」


『これは葬儀社に紛れ込ませた署員からの情報です。普段こんなことはしませんけど、今回は特殊ですからね。念のため人を付けてありました。』


『それを受けてよくよく調べてみると、母親は新興宗教の教祖の愛人をやっていたようです。周りで騒いでいたのもそこの人間だったようで、組織ぐるみでの復讐が懸念されます。新興宗教は何をやるか分かりませんから、今回の件は公安が動きます。』


(…最悪や。実家が金持ちじゃなくって、父親の金が回ってきてたってことかよ!)


「…そいつらは逮捕出来ないんですか?最近の法律でテロを企てたら犯罪みたいな法律が出来たと聞きましたが?」


『出来ます。出来ますし、こちらもそのつもりです。ただ…残念ながらもう逃げられてしまいました。葬儀社に紛れ込ませていた人員は1人だったので、その署員も情報を流すことを優先させたので…申し訳ない。』


(それは仕方ないか…無理をしてその人が捕まってたら狙われてることにも気づかなかったんだ。)


「それは分かってます。公安が動くとどうなるんですか?」


『公安が動けば…ご家族にはまずご自宅に戻ってもらってその周囲ごと警戒という形になると思います。圭人さんは警察の施設を毎日転々と移動でしょうか?家族は家に帰ったという情報を流して、本人は帰宅していないとすれば、家族も狙われるでしょうが、優先度は少し下がるはずです。家族や民間人が巻き込まれるリスクが少ない上に、移動し続けることで居場所が割れる心配も少なく出来ます。』


「なるほど…。家の周辺はどう警戒するんですか?」


『それに関してはまだ未定ですが、恐らく監視カメラを設置して、監視網を作ってからは怪しい人間がいないか片っ端から職務質問ですかね?そもそも怪しいのは家に近寄れないようにするはずです。マスコミも帰宅する様子を撮らせてから追い返されるでしょうね。』


(それなら…何とかなるか?)


「ありがとうございます。私も家族もよろしくお願いします。」


『えぇ、こちらも万全の警戒態勢と捜査態勢でことに当たります。それで西木さん、迎えを出しますので、今どこのホテルに泊まってますか?』


 泊まっているホテルの名前を伝えて、何時頃に迎えが来るか、迎えの名前、合言葉を教えられて通話を終えた。


 このホテルを出ることになった俺は、ダラダラした生活で散らかった部屋を急いで片付け始めた。

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