第21話 第四章 初陣  ~目覚めた騎士と駆け出しの主~ その1 キックオフ1

 白焔はくえんの研究への「協力」は、次の日から早速始まった。

「日曜だというのに、よく協力してくれたね! 昨日の今日だけど、疲れたりしていないかな?」

 ひげと眼鏡の研究者が、俺の家まで迎えに来てくれた。

 九曜くようテクノニクス研究所の主任さんだ。

 キラキラと光がこぼれてきそうな、無駄にいい笑顔。

 でも、目の下に、実に見事なクマができている。

「おはようございます。主任さんこそ、ゆっくり休めましたか?」

「はッはッは! 今日から始まる研究のことを考えると、昨日は一睡もできなかったよ!」

 徹夜明けのハイな気分と研究のワクワクを、抑えられない!

 それがビシビシと伝わってくる。

「……、そうですか。運転には、気を付けてくださいね……」

「はっはっは、何を言うかね! の輸送! もちろん、最大限に気を付けるにきまっているだろう!」

 あれ?

 何か物騒なことを言われたような気がしたけど、……ここは、気にしたら負けかもしれない。

 ひょっとすると、家まで迎えに来たのも、俺が逃げ出さないように攫いに来たのじゃないだろうか?

「それじゃ、お願いします」

 俺なんかは一生ご縁がなさそうな、超黒光りする高級車外車。おずおずと乗り込んだ。

 柔らかいけど、体をしっかりと支えてくれるシート。座り御心地は、流石の一言だ。

「シートベルトは良いかな? じゃ、行くよ!」

 途中の運転は、……正直、かなり荒かった。


 九曜くようテクノニクスに着いて、また驚かされた。

 今日は日曜で休日だというのに、この早い時間から研究者たちは全員集合!

「今日は、休日じゃなかったんですか?」

「おや、驚いたかい? 僕以外もみんな、すごく楽しみにして君を待っていたんだ! 休日だなんて、言ってられないよ!」

 主任さんは、上機嫌だ。

「それから、だね。知ってるかな? 昨晩、君たちが帰った後で、白焔はくえんが急に姿を消すことがあったんだよ! ほんと、あの地下室から煙みたいにいなくなったと思ったら、またフッと戻って来たんだ!」

 あッ!

 しまった!

 研究所からの帰り道で、ミサキとマツリ先輩が、ほんとに戦いでも始めそうな雰囲気になってしまった。

 その時に、思わず白焔はくえんを呼び出して、その場は何とか収まった。

 あの時、白焔はくえん空間移動テレポーテーションみたいな感じで現れた。

 その後、すぐに戻るように言ったんだけど……。

 白焔はくえんが俺たちのところに来たってことは、研究所の方からしたら、急にいなくなったってことになる。

「いやぁ、ほんと、突然だったから大騒ぎになったよ。急いで君に連絡を取ろうとしたら、また戻って来ただろう?」

 あちャー!

 そんな思いが、顔に出てしまった。

「君の、その顔。何か知っているね? いや、いいんだよ! その時にとれたデータの解析も、まだ終わってないんだから。もちろん、何か知ってたら、話してくれるよね?」

「……、はい……」

 俺の返事は、小声になった。


「主任、おはようございます! それと、橘リョウ君、だったかな? 今日から、宜しく!」

「ようこそ、このラボへ!」

「君には期待してるから、頑張ってくれよ!」

 すれ違う研究者さんたちが、気さくに声をかけてくれる。

 ……、白焔はくえんを呼び出した件の文句なんて、誰も言ってこなかった。

「昨晩のことは、別に気にしなくて良いよ! 誰も予想もしなかった、あの現象! 研究魂が刺激されるってもんだ!」

 主任さんは、上機嫌だ。

「ごらん、あの作業着のグループなんて、徹夜でデータの解析と実験の準備をしてくれたんだよ!」

 どうやら、昨日から泊まり込みで研究していた人までいるらしい。

 学校の文化祭前日みたいな、ガヤガヤした雰囲気。

 みんな妙に嬉しそうに仕事をしている。

 飛び交う言葉も、なんだか元気いっぱいって感じだ。

 思わず、俺もそんな雰囲気につられて、ワクワクしてきた。

「さぁ、研究室まで案内するよ!」


 一日ぶりに見る、白焔はくえん

「我が主よ。待ちかねたぞ」

 半人半馬の姿をした白焔はくえん

 口の部分は動いていないけど、声が頭の中に直接聞こえてきた。

「さあ、主よ。何なりと、ご命令を!」

「リョウ君、白焔はくえん君もああ言ってくれているし、早速始めよう!」

 白焔はくえんの声は、主任さん達にもしっかり聞こえているみたいだ。

「まずは、基本の動作からやってもらえるかな?」

「そうですね。白焔はくえん、いいか?」

「承知した!」

 白焔はくえんは、俺が声に出して指示するか頭に動作を思い浮かべれば、俺の命令どおりに動く。

 しかも、自動でだ。

 人工知能みたいなものでもあるのか、スムーズに会話もできる。

 説明書なんかはないけど、質問すればいろいろと答えてくれた。

 歩行などの基本動作と、それに関係した動力の検査などなど、朝からいろいろな実験が目白押しだ。


 昼過ぎになって、ようやく休憩。

 出された弁当は、有名な焼き肉店の弁当だった。

 冷めているけど、白米のご飯はとっても美味しい。お肉との相性も良くって、いくらでも食べられそうだ。

 値段は分からないけど、多分、学食で食べる定食の5倍以上だろう。

「おやおや、お腹が空いていたかな? 足りなかったら、遠慮なく追加で注文してね!」

 さすがに気がひけて1つ食べただけだけど、お腹は結構いっぱいになった。

「どう? 大丈夫かな? 朝からずっとで、疲れなかった? コーヒーで良かったかな?」

 俺の前の席に座った主任さんが、矢継ぎ早に訊いてくる。

 出されたコーヒーは、かなり美味しい。

 コーヒー好きの祖父がウンチクを話しながら淹れてくれたものよりも、正直、ずっと美味しい。

 良いコーヒーマシンを使っているみたいだ。

「初めてのことばかりで、正直、いろいろとビックリしました。なんとか、大丈夫です」

「君の協力のおかげで、今朝だけでも研究が大きく進んでいる! この調子だと、現行の技術体系が大きく変わる日も、もうすぐだ! あ、弁当は口に合ったかな? 無理はしなくていいから、体調の変化なんかがあったら、すぐに言ってくれたまえよ」

 主任さんは、ニコニコと上機嫌だ。

 この人なら、嘘はつかないだろう。

 白焔はくえんについて、ずっと気になっていたことを、訊いてみよう!


「あの、主任さん! ちょっと、良いですか?」

「うん? 何だね?」

白焔はくえんについて、気になっていることがあるんです!」

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