灰塵の姫と四人の騎士 ―〈死詠〉を狩る者たち―

汐海有真(白木犀)

Prologue 雨色

 透明なレースカーテンから真っ白な陽光が差し込んで、ベッドの上で眠っている雨色ういろの頬を寂しげに照らす。彼女の黒い髪はショートカットに切られていて、その前髪はさらりと長い。昼の世界にいるのにどこか夜を連想させるような、そんな十八歳の少女だった。


 小鳥の囀りが響いた。それは微かな音だったけれど、雨色を目覚めさせるには充分だった。彼女の目蓋はぴくりと動いて、それから徐々に開かれる。


 深い紺色の瞳が、見えた。


 今日も世界が始まったことを、雨色はぼうっとした頭で認識する。重い身体をそっと起こして、目を擦った。長い黒の睫毛が、淡く揺れ動いた。


 雨色は真っ白な布団を軽く掴んで、すうと息を吸った。それからふうと吐いて、視線を横に動かした。チェストの上には写真立てが置かれている。一枚の家族の写真が、飾られている。父親と母親、そして幼い兄妹。


 彼女は険のある眼差しで、その写真を暫くの間眺めていた。淡い色の唇が、ゆっくりと開かれた。



 ――許さない。



 そうやって、口にした。真っ黒な前髪は、右目を覆ってしまうくらいに長い。隠れかけた紺色の瞳と、見えている紺色の瞳。


 雨色はやがて、ベッドから立ち上がる。伸びをして、扉に向かって歩き出した。

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