10
翌日はイギーも一人でゴミ捨てに行った。やはりあの穴があった場所は深い谷になったままで、ゴミを捨てる度に緑色の発光が確認できた。それも明らかに昨日より増えている。それに今日は妙な音が谷底から響いてくるのが分かった。ゴゴ、ゴゴゴ。あるいはギュインギュイン。そんな感じの鳴き声だ。
一体どういう化け物なのか分からないが、名前がないのも不便だと感じ、イギーはとりあえず「グリーモ」と呼ぶことにした。緑色の化け物という意味だ。
名前を付けてしまうと、不思議と愛着が湧いてくる。
もちろん自分の身に危険が訪れない、という保証があるからだが、イギーは谷底を睨みつけると「また明日も餌やりに来てやるよ」と言い残し、荷車に戻った。
危険がないことが分かると、寧ろゴミを処理してくれるありがたい存在にグリーモは昇格した。当然、他のみんなには内緒だ。いくらゴミを捨てても誰も文句を言わないし、いっぱいになって別のゴミ捨て場を探す必要もない。唯一の問題点は捨ててしまったゴミの中にもし金目の物が混ざっていたとしても、二度と取りに行けないということだ。
しかしそこはイギーも別の案を考えていた。
繁華街の裏通りにある大衆食堂だ。そこの主人に考えていたことを話すと、
「おい坊主。それ、本当か?」
食いついてきたのは無駄話をしにやってきていた別の男性だった。
「本当にそんな値段でゴミの処理をやってくれるのか?」
「あ、ああ」
その男はジョニーと名乗った。彼は飲食店を相手にゴミの回収業者をやっているが、やはり以前のイギーと同じく埋め立て場所に困っているらしい。公爵家のように山がいくつも私有地だ、というような人物でもない限り、場所を探す以上にそこを借りたりする費用が発生する。
「だから酷い業者になると他人の家の庭に勝手に捨てていったり、川に流してしまったりするんだ。でもそれじゃあイースタンのようになってしまうからね。私たちも色々苦労しているんだ」
「まだこれから始めるところなんで、どれくらい金取ればいいとか、全然考えてなかったんですけど」
苦笑を浮かべたイギーにジョニーは大きく手を叩く。
「へえ。じゃあ坊主よ、私らと手を組まないか?」
「俺も一人で出来るのは限界あるし、そうしてもらえるならありがたいです」
何だか上手い話が転がっていたと、内心では小躍りしたい気分だったが、イギーはそこをぐっと堪え、真面目な顔で男に向き合った。
その場での詳しい話は避け、翌日、イギーの仕事終わりに落ち合うことになった。
だが残念なことに、翌日は朝から雨だった。緊急性が高くないと雨の日にはゴミ捨てに出かけない。
ロンと二人、箒を手に納屋に避難してきて、腰を下ろす。
「そういやさあ、イギー」
「ん?」
「あれから、あの緑の奴。どうなった?」
「どうって?」
「いや、ほら、まだアルデバランとか見つかってないだろう? ミリア様の癇癪が日に日に酷くなるらしくて、マリアンヌがこの前、一人でこっそり泣いてたんだよ。やっぱあの緑の奴が食っちまったとかなのかな」
もしグリーモが屋敷からゴミが消えた犯人だとしたら、確かにロンの言う通り、アルデバランは既にこの世にいないだろう。ただグリーモはあのゴミを捨てていた大きな穴に棲んでいた何かで、屋敷のゴミ喪失事件との関わりはまだはっきりとはしていない。仮に同一犯だとすればどうやってグリーモは屋敷からあの山奥のゴミの穴を見つけたのだろう。
「なあロン」
「何だよ?」
「あ、いや。やっぱいいわ」
「何か話があるなら聞いてやるぞ、夕飯くれたら」
「すーぐそうやって飯を貰おうとすんだから」
「仕方ないだろ。オレたち育ち盛りなんだからよ」
「ちげーねえ」
笑っていてもお腹は膨れない。それでも二人は大きな声で笑った。
ただこの空腹を抱えた笑いとも、ひょっとするともうすぐお別れかも知れない。イギーはまだロンに黙っておくことにして、一人でジョニーとのゴミ回収事業について思いを馳せた。
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