お掃除ロボット異世界に行く!〜汚世界は綺麗にしましょうね〜
凪司工房
1
それはゴミの山の中に埋もれたお宝だと、最初は思った。
屋敷の使用人の中でも最低のDランクであるイギーは裏山に荷車を引いて訪れた。まだ日が高い午後のことだ。街の大通りのように舗装なんてされていない、でこぼことした山道をゴミの袋とはいえ子ども二人分ほどの重さを引いて上がるのは、体の小さいイギーにとっては難儀なことだった。しかも毎日だ。どうして貴族というのはそんなにゴミばかり出すのだろう。毎日パーティーなるものを開いては湯水のようにお金を溶かしていく。それでも温泉のように無限にお金が湧いてくるらしく、没落する気配はない。使用人仲間のロンは「いつかオレも貴族に成り上がる」と言っているが、相変わらず屋敷の掃除専門だ。特に煙突掃除を頼まれることが多く、もう鼻の頭の黒いのが落ちなくなっていると笑っていた。
山道を登り切った丘に、ちょうどゴミを捨てるのに良い深い穴があることを知ったのは半年ほど前のことだ。それまでは誰にも見つからないようにと山奥のよく草木の生い茂る峠の傍まで行って捨てていた頃に比べると、時間も半分ほどで済む。
その穴に捨てていたゴミの中に、光るものを発見したのは秋も深くなり、遠くの木々が赤や黄色に色づいているのがよく目立つようになった頃だった。
「金目のものなら」
実はイギーはこれまでも何度かゴミに混ざっていた指輪やネックレスの切れ端、何かに付いていた宝珠、それに金や銀のスプーンといったものを拾い、それを小銭に変えていた。
ただこの日見つけたものはそんな小さなものではない。イギーがひと抱えもするような、大きな円形の金属だった。
「随分でかいなあ。しかしこれ何だ?」
色はちょうど鉛のような感じで外側の縁の部分は黒くなっている。中央とその上の方に小さな円が描かれ、全体的につるりとした不思議な触感だ。裏返すとそれは口を開いているように長方形の穴が開き、そこに何か気味の悪い棒状のものが詰め込まれていた。更に口の両脇には歯車が埋まっている。
今までにイギーが目にしたことのない不可思議な物体は、生き物のようにも見えたが微動だにせず、仮に生物だったとしても既に死んでいるのだろう。珍しさで云えば特上だ。いや極上と云ってもいい。イギーは高く売れそうだと、一人ほくそ笑む。
とりあえず荷車からゴミの入った麻袋を全て下ろし、中身を穴へとぶちまける。麻で編んだ袋はところどころ穴が開き、気をつけないと破れてしまいそうだ。ゴミの多くは料理で出たものや食べ残し、汚れて使い物にならなくなった衣類に、後は貴族たちによって破壊された皿やグラスの欠片だ。何でも最近離れた場所に立てた皿などに石を当てて点数を競うゲームが彼らの間で流行っているらしい。大半が安物の器ばかりだが中にはイギーたちが一生働いても稼げないほど高額なものも混ざっているようで、料理長のアーバインはその厳つい顔で「奴らの食べる分だけ毒混ぜてやる」と言っていた。
何とか全ての袋の中身を穴へと出し、軽くなった荷車にはあの銀色の円盤がへなへなとなった麻袋の束に埋もれていた。とりあえず隠しておいた方がいいだろうと思い、その一つの中にそいつをしまい込むと、幾らで売れるだろうかと皮算用をしつつ、イギーは屋敷への道を戻っていった。
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