私達は魔法少女だ。


 この日本に現れる怪物を日夜倒して、日本の皆さんに安寧をお届けしている。


 私の相棒は栗色のふわふわした髪にツンとした鼻、くりくりお目目のみくりちゃん。


 可愛らしい見た目とは裏腹に彼女の魔法は強烈だった。


 今日なんて、彼女のビームを受けた怪物は木っ端みじんになって肉片が東京中に飛び散って大変だった。そこはファンタジーでもなんでもないのだ。


 最初こそ私は憧れの魔法少女になれて嬉しかったが今ではその熱意も底をつき、惰性で怪物を蹂躙している。


 みくりちゃんも同じくどこか空虚な瞳で、強力な魔法を放っていた。



 昔の私達はあんなに最強だったのに。


 私はみくりちゃんと出会った当初を思い出す。




 数年前の私は、空っぽだった。


 空っぽといったが、正確には怪物への憎悪のみをガソリンとして生きながらえていた。


 家に帰ってきたら両親と妹が惨殺されていたのだ、唖然としていたら近所の人の通報を聞きつけた怪物省の大人が家に押し寄せてきて、あれよあれよのうちに私は政府直下の魔法少女育成機関へと行くことになった。


 そこで博士から紹介されたのがみくりちゃんだった。


「この子が今日から君のバディの魔法少女だよ」


 博士が眼鏡の奥の瞳を細めながらそういう。


 博士に紹介されたみくりちゃんはみすぼらしい恰好とボロボロの顔面でニタニタ笑いながら「よろしくね」と笑った。


 あとで他の魔法少女から「あの子は怪物省の大人たちの慰みものになっている」と聞かされたが、私には怪物が殺せるならどうでもよかった。




 破竹の勢いの私達だったが、最近の私はもう怪物とかどうでもよくなっていた。もう家族の顔も思い出せないのだ。まるで熱を失ったランプのように毎日が暗く、冷たい。


 その反面、みくりちゃんは最近すごく楽しそうで、ニコニコしている。


 出会った当初に見せたあの底知れない不気味な笑顔ではなく、まともな人間の笑みだった。


「私はもう少しで死ぬよ」


 みくりちゃんが言う。


「どうして?」


 私は自分のやる気がないことがばれたのかと思い、恐る恐る聞いた。


「エネルギーを使い果たしちゃったから!でもね私は今とても人間なんだ!」


「ふぅん」


 目をキラキラさせながら意味不明なことを語る彼女は、その数日後自室で首をつって死んだ。


 私は長年の相棒が死んだというのに特に悲しくも何もなかった。


 自分が何も感じないことが怖かった。


 葬式と呼べないほど簡素な葬儀の後、博士に話しかけられた。


「みくりのことは残念だったね、彼女の憎悪がもう少し深ければまだ正気に戻らなかったのに」


「憎悪?」


「あれ、言ってなかったかな。魔法の源は憎悪の感情なんだよ」


 そうことなげもなく語る博士の顔は今までみたどの怪物よりも邪悪だったが、私はとくに怒りや恐怖を感じなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る