第5話 宇宙連合指定の宿は満杯
惑星テラの夜景は美しかった。
しかし急ぎの案件だったため、ヘルメスは普通は回避するような、かなりハードなコースのワープを繰り返し、惑星テラへやってきていた。タフなヘルメスでさえかなり疲れていた。早く休みたかった。しかしその日、宿は宿泊客で満杯だった。
もう少しで、断られそうになったのだが、連れのセーヤが何者であるかに気づいた男がいた。男は宿の支配人にそっと耳打ちし、部屋を用意させた。
男はにこやかな笑みを浮かべながら、ふたりに近づいてきた。
そしてセーヤをなめるような目で見つめながら、
「あなたにまた会えて光栄です、セーヤ」
と言った。しかしセーヤは男のことをまったく覚えていなかった。
「ところでお隣のかたは、初めて会う方なのですが、どなたですか?」
と、あまり関心のない素振りをしながらも、セーヤに聞いてきた。
「まさかあなたの恋人ではないですよね?」
その言葉はセーヤの心に、棘のようにつきささった。
セーヤは予期せぬことに出会うと、心が対処出来なくなることがあるのだが、そのことを知っていたヘルメスは、
「そうです、彼は私の恋人です」
と言って、混乱するセーヤを抱きしめた。
セーヤは小さな子どもがそうであるように、抱きしめると、安心して落ち着きを取り戻すことをヘルメスは経験から知っていた。そしてセーヤが落ち着きを取り戻すと、セーヤから離れ、男に言った。
「冗談ですよ。彼と私は、昔、同じ職場で働いていた同僚です。彼は心が繊細すぎて、ときどき自分を見失うほど混乱するんです。そういう時は、親になったつもりで彼を抱きしめると、彼は落ち着きを取り戻します。だから抱きしめたまでです」
男はヘルメスが気にくわなかったが、それ以上詮索することはせず、もう一度支配人のもとへ行き、何かを耳打ちした。
やがて支配人が2人のもとへ来て、
「ぐっすり休めるように、あのお客さまのご厚意により、特別に個室をご用意できることになりました」
と言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます