66. 禁域に立ち入りし者たちの末路
***シャムネ伯爵夫人(ランザ)
「おい、ランザよ。去年まではここもこのように薄暗い森ではなかったはずだが?」
今日は侯爵家当主に当たる伯父様をお招きしてのミラーシア湖保養会だ。
でも、初めから行く先を遮る木々に邪魔されてまともに進めやしない。
一体どういうことなのかしら?
「そ、そうですわね、伯父様。どうなっているのでしょう?」
「侯爵閣下、王家からアウラとかいう小娘に管理が移ったせいで細かいところの整備が行き届いていないのでしょう。気にせず進みましょう」
「う、うむ。しかし、魔導車が使えないというのも不便だな」
「申し訳ございません。魔導車を使うにはレイキの街が邪魔でして……」
「レイキか。余所の国から来た浅ましい身分の小娘が建てた街なのだろう? この保養が終わったらすぐにでも中央に申し立てて爵位を取り消してもらわねばな」
「さすがですわ、伯父様。あの小生意気な小娘がいなくなるとはこの上ない喜びでございます」
「うむうむ。名誉ある我が一族に楯突く愚か者には鉄槌を下さねば」
本当ですわ。
まったく、同じ伯爵位だからといい私を長々と待たせて詫びのひとつもしないだなんて。
憎たらしいったらありゃしない。
あんな小娘、爵位を剥奪されたあとは子飼いの商人に言って奴隷落ちさせようかしら。
そうね、それがいいわ。
そうしましょう。
「それにしてもミラーシア湖か。その小娘が爵位を剥奪されたあと、ランザがこの地を治めるべきだと思うがお前はどう思う?」
「そうですわね。私もそれが相応しいと思います。この広大なミラーシア湖を好きなように開発できるのですもの、遊ばせておくのはもったいないですわ」
「そうだろうそうだろう。田舎娘にはそれがわからぬと見える」
「ええ。礼儀もわきまえぬ田舎娘ですわ」
「やはりミラーシア湖はランザが治めるべきだな。田舎娘の爵位剥奪とあわせて女王にもの申そう」
「あら、伯父様。女王陛下にもの申すだなんて不敬ですわ」
「構わないさ。親の病気で若くして女王を継ぎ、まともに政治を理解していない小娘などに敬意を払う必要などない!」
伯父様ったら本当に豪胆ですこと。
でも頼もしいですわ。
私もミラーシア湖を引き継げるように家臣団をいまから考えておかないと。
「それにしても……奥に行くほど森が暗くなっていくな? ミラーシア湖の森とはこのような森だったか?」
今日踏み込んだミラーシア湖の森は、奥に行くほど木々がうっそうと多いしげり空が見えず太陽の光も遮られてしまうような深い森になっているわ。
このような森がミラーシア湖一帯にあっただなんて聞いた事がないのだけど、なにかがおかしい気がするわね。
「い、いえ。私もこのような森だったとは思いません」
「……ここは一度引き返して出直すべきか」
「そ、そうですわね。そういたしましょう」
「かしこまり……ぐぎゃぁあ!?」
「なんだ!?」
「なに!? なんなの!?」
私たちが恐ろしくなり道を引き返そうと後ろを振り向いた瞬間、それは牙を剥いてきた。
付き従っていた従者のひとりが何者かによって絞め殺されてしまったのだ。
何者か、というのは姿形が一切見えないということ。
魔力も何も感じないのに、その従者は血まみれになって引きちぎられていた。
なんと無残な……。
「ひ、ひぃぃぃい!」
「い、いやぁぁ!」
「お、おい、儂をおいて逃げ出すな!」
「あ、伯父様!」
私たち一行は恐怖に駆られて皆バラバラに逃げ出してしまった。
それに釣られて伯父様まで走り去ってしまう。
私は周囲の様子をうかがうため、この場にひとり残ったけれど、正しい判断だったのかしら?
周囲は霧に覆われて何も……霧?
霧なんていつの間に出ていたの?
『ほう。お前は逃げ出さなかったのか』
「誰!?」
『私は水龍。この湖の管理者であり守護者でもある』
「な、なぜそのようなお方が?」
『決まっている。私の領地を土足で踏み荒らす不届き者を成敗しに来たのだ』
「領地を荒らす不届き者?」
『アウラとの話し合いでお互いの暮らす範囲は決まった。範囲を変える場合は話し合いで決める事になっている。それに、迷い込んだだけであればこのような森の深くまでは来ない。すぐ出でられるような仕掛けを施してあるからな』
「あ……」
『さて、話はわかったな。他の者どもの始末も残っている。では、さらばだ』
「ま、お待ちくだ」
********************
***アウラ
ある日の昼下がり、水龍がやってきた。
いつも通り野菜を食べに来たのかなと思ったけどあたしに用事らしいんだよね。
何かあったのかな?
『アウラ、侵入者どもを始末したがどうする?』
「侵入者ども? 何かあったの?」
『アウラとの間で決めてあった境界線を乗り越えてきた者どもがいた。自らの意思で奥に奥にと進むため侵入者と判断し、私が始末したのだ。其奴らの遺品を持って来ているがどうする?』
いや、遺品って……。
そんな物もらっても困るんだけどなぁ。
でも、勝手に入り込んだ連中の不始末をとるのがヒト側の管理者であるあたしの仕事か。
「とりあえず、庭に置いていって。あとで検分するから」
『わかった。私は野菜をもらったら帰る事にする。ではな』
あ、結局野菜は食べていくんだ。
それで、遺品とやらを調べたらどうやら貴族の持ち物らしい。
こういう物に詳しいフェデラーによると、どこぞの侯爵とシャムネ伯爵夫人の物が含まれているらしいね。
あのおばさん、忠告を無視して入り込んだのか。
フェデラーに相談したらひとまず女王陛下に相談した方がいいと言う事なので、女王陛下に会いに行く事にした。
余計な仕事を増やしてくれて……最期まで邪魔をしてくれる迷惑な人だったね。
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