58. 街への移住者たち
さて、移住者を募ることになったけど正攻法ではダメだ。
住人とは課税対象であり貴族の収入源である。
従って貴族が別の貴族の領地で移住者を募るには、相応の誠意を相手に示さなければならない。
と言うのがフェデラーの談。
と同時に、シャムネ伯爵夫妻に何も与えたくないという感情はフェデラーも一緒なわけで、お金のかからない引き抜き方法を教えてくれて、それを実践に移してくれた。
それは……。
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***フェデラー
私はアウラ様の命を受け、再びアグリーノの街へとやって参りました。
まあ、今回は簡単なお使い程度ですが。
「さて、この策、うまく行くでしょうか」
自分で提案しておきながら策がうまく行くかどうか自信がないというのも情けない。
ですが、今回は他人の動きを口先だけで刺激する方法、なかなかうまくは行かないでしょう。
果たしてどれくらいの住人が集まってくれるか。
「失礼いたします」
「ん? おや、あんたはフェデラーさんじゃねえか。アウラお嬢様からのお使いか?」
この方は以前、アウラお嬢様がお世話になった農家のおひとり。
話を聞いていただくには十分でしょう。
「お嬢様からのお使いなのは間違いありません。ひとつお伝えしたいことがありまして」
「なんだ? そう言えば学者先生は元気にしてるだか?」
「エドアルドさんも元気に研究しておりますよ。今日皆さんに持ってきた話というのは、新たな街を造るため、移住希望者の募集に参りました」
「新しい街を造るための移住希望者?」
農家の方の表情がいぶかしげになりました。
そうでしょうね。
代々伝わってきた畑を捨てろと言っているのですから。
「何も皆様自身が移住者になってもらう必要はありません。農家の希望者であぶれている方々を紹介していただければ十分でございます」
「ああ、なるほど。確かに、うちにゃいねえが、あとを継がせる畑のねえ三男坊なんかを抱えてる家はあるな」
「そういった方々にこの話を持っていっていただけますか? 働く場所は、ミラーシア湖の北西部。ここからですと、ミラーシア湖に向かって魔導車で半日かからない程度の距離でございます」
「あっはっはっは。そんなところに新しい農業都市を造られちゃアグリーノの街もおしまいだな」
「どうでしょう? あなた方も来ては」
「うーん。代々の土地を見捨てるのは目覚めが悪いな。悪いが遠慮しておくよ。働きたいやつらはどうすればいい?」
「1週間後、街の南門を出てしばらく行ったところに大型魔導車を隠しておきます。それにお乗りいただければと」
「わかった。話を通しておく。偉い連中にはばれない方がいいんだよな?」
「お嬢様はシャムネ伯爵夫人と犬猿の仲ですので」
「了解だ。後は任せてくれ」
ふう。
種蒔きは無事完了ですか。
後は上手く芽吹いてくれるとありがたいのですが。
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***アウラ
フェデラーにお願いした引き抜き作戦は無事成功したみたい。
なぜなら、フェデラーの乗っている魔導車には若い男女が20名近く乗っているんだからね。
フェデラーからの連絡では既に全員集まったということなので、もう出発するみたい。
あたしも離れた場所からヘファイストスで追いかけよう。
『しかし、移住者を集めるというのも一苦労なものだ』
「まあね。ヘファイストスの頃は違ったの?」
『私は直接みたことがないが、何でも人間サイズの自立型魔導兵が農作業をしていたらしい。あとは、各種野菜を育てる植物プラントなどだ』
うーん、こういうときのヘファイストスの言葉はよくわからない。
ともかく、人力で畑を耕していた訳ではないらしいことはわかった。
『集まった人数に対して家の戸数は足りているか?』
「足りなければすぐに作れるでしょう? 家具とかだって基本的な物は揃えられるし」
『それもそうだったな』
あたしとヘファイストスが揃えばその程度の作業はすぐ済むのに。
心配性なんだから。
さて、次は新しい街での説明だね。
そこもちゃんとしなくっちゃ。
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