54. 『観光と農業の都市』建設について

 とりあえず観光の実態は大体把握した。

 話に出ていた貴族が無断利用していたことも含めてね。

 さて、そうなるとあたしの街造りも考えなくちゃいけなくなるんだけど、どうしたものか。


「あら? アウラ様、なにか考えごとですか?」


 今後についてどうするか考えていると、エリスから声をかけられてしまった。

 あたしってそんなにわかりやすいかなぁ。

 まずはエリスの意見を聞いてみよう。


「エリス、あたしはミラーシア湖北側に『観光と農業の都市』を造りたいのよ。どう思う?」


「ふむ。立ち話もなんですね。私の離宮まで戻りましょうか」


 エリスに連れられて彼女の暮らしている離宮まで戻ってきた。

 そこにある応接間で温かいお茶を飲みながら先ほどの話の続きだ。


「アウラ様、その話は具体的に決まっているのでしょうか?」


「いいえ、まだよ。まずは女王陛下と水龍の許可を得てから考えようかなって」


「その判断で正しいと思います。ミラーシア湖もいまではアウラ様の領地ですが、王家の保養地であることは変わりません。また、水龍様の守る土地でもあります。そこに無許可で街を建てるのはよくないでしょう」


「やっぱり? 聞きに来て正解ね」


 あたしには街造りのノウハウもなにもないからそれも含めて相談に来たんだけど、やっぱり来て正解だったみたい。

 王家の別荘を遠目でも見せるわけにはいかないもの。


「それで、アウラ様はどのような街にするおつもりですか?」


「基本的には私の家で作られている作物を大量生産する街ね。それから、ミラーシア湖へ観光に行く人たちが泊まるための宿屋街といったところかな」


「あのお野菜の大量生産……あの、国にも税金として納めてくれますよね?」


「それはもちろん。街を造ったら街で稼いだ分の税金は支払うよ」


「ふむふむ。これはお母様に相談せねば。誰か、お母様の手が空いたか確認してきて。もし手が空いているようだったら、アウラ様がミラーシア湖の開発で相談があるために来ていると伝えてちょうだい」


 エリスは人を使って女王陛下の様子を確認させにいったようだ。

 結果としてはあと2時間ほどで手が空くらしい。

 その際に、ミラーシア湖開発について詳しく聞くそうだ。

 それまでの間はエリスといろいろな大枠を決めていき、時間になったら女王陛下に会いにいく。

 いい返事、もらえるかな?


「ふうん、ミラーシア湖の開発ねぇ」


 最初にあたしとエリスで一通り説明した後、女王陛下の様子をうかがったけど少し気乗りしないみたい。

 やっぱり計画が甘いかな?


「どうでしょう、お母様。私は悪くないと考えるのですが」


「私も計画そのものは悪くないと感じるわ。シャムネ伯爵夫人の親戚という連中にも目星がついているし、そいつらにも私からの書状でミラーシア湖観光をやめるよう命令しましょう。ただ、街を造るのはねぇ」


「考えが甘かったでしょうか?」


「アウラの考えが甘いというよりも、住人をどうやって集め、どうやって街として機能させるかなのよね。普通の街は小さな宿場町から始まってだんだん大きくなるものだし。いきなり大きな街というのも大変よ」


 あ、そっか。

 普通はだんだん大きくなっていった結果が『街』なんだ。

 いきなり街なんてできないよね。


「それに農業の街を造るのはもっと大変。農家って土地を持っているから、土を育て作物を育てることを何十年と行っているのよ。そんな土地を捨てて新しい土地で一から耕せと言って人が集まるかどうか」


「うーん。思ったよりも難しい……」


「街造りなんてそんなものよ。街だって生き物だもの。そう簡単ではないわ」


「はい。ちょっと甘く見ていました」


「それがわかれば結構。だけど、お野菜には興味があるわね。街造りって家とかはどうするの?」


「それも帰ってから相談です。ヘファイストスなら材料を集めればなんとかできるんじゃないかと」


「ヘファイストス頼みというのも考えものだけど、使えるものは使った方がいいわね。まずは水龍様の許可と街の場所、それから規模。街の街壁や家などの建物をヘファイストスで作れるかなどを確認してからまた来なさい。そうしたら力を貸せることもあるわ」


「わかりました。その時はお願いします」


「ええ。その代わり、街が軌道に乗ったら納税はその街で採れた新鮮なお野菜でね」


 女王陛下も野菜目当てか。

 でも手伝ってくれるって言うんだし、悪いことじゃないよね。

 次は水龍の説得。

 こっちは手間取りそうだなぁ。

 水龍、結構人の好き嫌いがはっきりしているせいで不特定多数の人が来るのは嫌がりそう。

 どちらにしても相談だけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る