44. アグリーノ冒険者ギルドでちょっとお手伝い
その日は屋敷に戻り、翌朝早い時間からアグリーノの街を訪れる。
昨日訪ねた農家に行ってみると、既にあたしたち用の野菜が用意されていたらしく、様々な種類の春野菜を手渡してくれた。
これはありがたいね!
シーナさんもその場で簡単な調理を始め、その料理をみんなで食べたけど味も悪くない。
悪くないんだけど……シーナさんの野菜になれているあたしには物足りないかな。
「どうしたんだい、アウラ。なにか気になることでも?」
「え? ああ、うん。やっぱりシーナさんの野菜の方がおいしいなって」
「そいつは嬉しいがあたいのは特別製だ。普通に研究して同じ結果を出そうとしたら、とんでもなく費用がかかっちまうよ」
「そうなの?」
「そうだよ。普通の品種改良は植物魔法で種同士を結合させてそれを育てる。だから、育てた結果もある程度わかるんだ。でも、あたいのは植物魔法で種を結合させたんじゃなく、野菜の花を受粉させて種を交配させているんだ。そうすることで作物の性質を変えていっているのさ」
「へえ。そうするとどうなるわけ?」
「親株の持っていた特性を引き継いだ子株が生まれる。ただ、その子株だって必ず望み通りになるわけじゃない。期待通りの形や味にならなかったらやり直しさ」
うわ、それって大変そう。
ん?
花を受粉させて種を取る?
「ねえ、シーナ。あなたの方法だと1年に1回しか品種改良ができないんじゃない?」
「できないよ? 植物の生長だって植物魔法なしで行う。1年に1回だけ、野菜の生長に失敗したらそれまでの品種改良だよ」
「シーナってそんな難しいことをやっていたんだ……」
「昔は種を植物魔法で結合させていたんだけどね。それだとどうしても雑味が出るんだよ。あと、植物の生長に植物魔法を使うと栄養不足になりがちだね」
シーナって野菜のことはよく知っているね。
本当に野菜が好きなんだ。
「はー、そっちの嬢ちゃんは野菜作りに詳しいなぁ」
「まあね。自分でいろいろ工夫して作っているからさ。あんたたちもあたしの野菜を食べてみるかい?」
「いや、やめておくよ。それにしても、花から種を作るか……。植物研究所にもそんな先生がいたなぁ」
おや?
植物研究所ってどこだろう?
「ああ、いたいた。ただ、いまじゃ閑職に干されているって話だ」
「かわいそうになぁ。いま作っている野菜のほとんどはあの先生が作ったんだろう。それを追いやるだなんてよ」
「偉い人たちの考えることはわかんね。……ああ、嬢ちゃんたちも偉い人だったな。すまん」
「いいわ。気にしていないから。でも、その先生とやらには会ってみたいかも。植物研究所ってところに行けば会えるの?」
「会えるかもしれねえが……どうだろうな?」
「研究所を辞めているかも知れねぇし、保証はできねえぞ」
「構わないわ。その人の名前を教えて」
「ああ。その先生はエドアルドって言う名前だ」
「研究所に行って会えなかったら自宅かもしれねぇ。場所は……」
農家の皆さんからエドアルドって言う研究科の情報も得たし早速その植物研究所とやらに出発……しようと思ったらなんだか街の方が騒がしい。
関係ないとは思いつつ、一応フェデラーに様子を見に行ってもらった。
すると帰ってきたのはちょっと驚きの内容だったのよね。
「はぁ? オークの群れが現れて街道が封鎖された?」
「はい。どうもそのようでして……」
「オークの群れってどれくらい? 百? 二百?」
「その、逃げてきた商人の話では30匹程度だったと」
「30……たかが30匹程度で街道を封鎖するような騒ぎに」
あたしはちょっとめまいを覚えた。
相手はオークよ!?
30匹なんて数なら冒険者が出向いて終わりじゃない!
なんで街道封鎖なんて話になっているのよ!
「それって街の防衛隊や冒険者ギルドには話が行っているの?」
「行っているはずです。ですが、街の行政は昨日の騒ぎを受け麻痺状態。冒険者ギルドはすぐに十分な人数を集められないそうでございます」
「オークを30匹倒す人数が集められないの?」
「……そのようでして」
「この街の防衛体制が心配だわ」
「同感でございます」
さて、どうしよっか。
この街の問題だから無視しても構わないんだけど、恩を売って今後の交渉を優位に進めたい気もするし。
ちょっと交渉してみましょう。
「フェデラー、ちょっと冒険者ギルドまで出かけるわよ」
「おや、お嬢様自らが出陣なさると?」
「少しくらいこの街に恩を売っておいてもいいでしょう。なにかの役に立つかもしれないし」
「かしこまりました。冒険者ギルドまで参りましょう」
フェデラーとシーナさんとともに魔導車で冒険者ギルドまで乗りつける。
そのままフェデラーに命じて冒険者ギルドマスターに面会をお願いし、それもすぐに叶った。
緊急事態でも名誉伯爵のお願いは断れなかったみたいだね。
さて、話し合いといきましょうか。
「それで、ミラーシア湖の名誉伯爵様がこの緊急事態になんの用だ?」
「まあまあ、焦らずに。あなた方は街道をオークどもに塞がれて困っている。でも、冒険者は集まらない。そうよね?」
「ああ、その通りだ。お前さんが戦力を出してくれるのか?」
「ええ、出しましょう。と言ってもあたしひとりだけど」
「なに?」
「たかがオークの30匹程度でしょう。そんなの手間取る相手でもないわ」
「貴族様のお遊びじゃねえんだぞ!」
「あら、あたしはこの間まで現役のルインハンターだったんだけど? エンシェントフレームも持っているし、オーク程度じゃ相手にならないわ」
「……そこまで言うなら倒してもらおうじゃねえか。条件は?」
「倒したオークの素材は全部あたしがもらう。でも、冒険者ギルドはオークの討伐報酬をあたしに支払う。それでいいわね?」
「ちっ、足元を見やがって」
「これでも貴族になっちゃった身だからね。安く動くわけにもいかないのよ」
「わーったよ、それでいい。ただし、監視員はつけるからな」
「ええ、よろしく」
ちょっと予定外の展開になったけど久しぶりの戦闘だね。
腕が鈍ってないといいけど。
まあ、気を付けて頑張るか。
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