19. リードアローからの脱出
エリクシール殿下と約束したリードアロー出立まであと1日。
あたしの鍛冶屋も昨日で店じまいをした。
アイアンゴーレム、まだ半分くらい残ってるんだけどね。
明日出発なので、いまは長くお世話になったリンガさんにあいさつに来ている。
「ふむ。アウラも明日出発か。ずいぶん長く留まっていたものだね」
「あたしもそう思います。まあ、街から出してもらえなくなったせいでもありますけど」
「それについては国に対して抗議文も送っているんだけどね。返事が一切返ってこない。冒険者ギルドとも相談しているが、この国との関係を見直すべきなのかもしれないねぇ」
「国との関係を見直す、ですか?」
「国からの依頼はすべて断るってことさ。別の街や村からの依頼も国を介したら断ることになるけどね」
「それって国のせいで困る人が出てくるんじゃ……」
「それも含めて国の責任だよ。冒険者ギルドもルインハンターズギルドも国とは対等な関係。関係が悪化すればどうなるかは思い知らせないと」
うわぁ、この国って本当に終わってるのかも。
あたしには関係ないけど、この国の人たちがかわいそう。
「それで、このあとはエリクシール殿下たちと一緒にマナストリア聖華国に行くんだったか。あの国は森と花に囲まれた美しい国だよ。遺跡が少ないからルインハンターは近寄らないんだけどさ」
「あ、それで行ったことがなかったんだ」
マナストリア聖華国って名前くらいしか知らなかった理由はそういうこと。
ルインハンターには縁遠い国だったんだね。
「金はたんまり稼いだんだし、しばらくは観光とでも考えて羽を伸ばしてきな。それに、ヘファイストスほどのエンシェントフレームがあるならルインハンターは廃業してゴーレムやドラゴン狩り専門の冒険者になった方が割はいいよ」
「そうですよね……そっちの方が安全そうだし」
「ゴーレムやドラゴンでもマナトレーシングフレームにはかなわないからねぇ」
やっぱりルインハンターは廃業した方がいいみたい。
正直、ゴーレム1台持ち帰ったときの売値を考えると、我が身を危険にさらして遺跡に潜る意味がないんだよね……。
「まあ、ヘファイストスはあんたのものだし、今後の身の振り方はあっちに行ってからゆっくり決めな。白金貨だって持っているんだし、よっぽど豪遊しなければ食いっぱぐれないよ」
「豪遊なんてしません。お酒も苦手ですからね」
「なら結構」
お酒は安物しか飲んだことがないけど、苦いだけでおいしいって感じたことはないんだよね。
昔からあたしのバッグには非常時用の水が大量に詰まっているから言えることなんだけど、ワインもできれば飲みたくないし。
そのあともリンガさんとあれこれ話をしていたら外が騒がしくなってきた。
というか、誰かが揉めているような……。
「なんだい。外が騒がしいね?」
「そうですね。なにがあったんでしょう?」
「ちょっと調べるか……ん? 誰かが階段を駆け上がってきたね?」
リンガさんの言うとおり、階段を集団で駆け上がり廊下を走ってくる音が聞こえてきた。
そして足音が部屋の前で止まると、ドアが乱暴に開かれる。
一体なんなの?
「ルインハンターズギルドマスター、リンガ。及びルインハンター、アウラだな?」
「ああ、私がリンガだ。あんたら何者だい? 国軍の鎧を身につけているが。ここがルインハンターズギルドだと知っての狼藉かね?」
「うるさい。本日発布された王国令により冒険者ギルドとルインハンターズギルドのすべてはリードアロー王国のものとなった。お前たちは所有しているすべての資産を国に引き渡せ。表に止めてあるエンシェントフレームも、所有しているという大量の鉱石も、ルインハンターズギルドが隠し持っているという古代遺産の兵器もすべてだ」
はあ!?
なにを言い出しているの、こいつ!
ルインハンターズギルドがそんな命令に従わなくちゃいけない理由があるわけないでしょう!
「ふむ。王国令ということは国王が署名して発布された命令でいいんだね?」
「その通りだ。早くすべてを差し出すのだ」
「お断りだよ。さっさと帰りな」
「なにぃ!?」
「ああ、ついでに伝言だ。ルインハンターズギルドはすべての資産を持ってリードアロー王国から撤退する。あとは勝手にやっておくれ」
「そんなことが許されるとでも思っているのか!」
「許されるよ。それがルインハンターズギルドと国の間であった取り決めだ。アウラもこんなバカどもは無視してさっさとヘファイストスでこの国を去りな」
「はい。そうします」
やってきた兵士長みたいな人は顔を真っ赤にしているけど、あたしたちには関係ない。
多分、この話は冒険者ギルドにも伝わって冒険者ギルドもリードアロー王国から撤退するだろう。
残されるのは依頼先を失った住人や各ギルドの協力を仰げなくなった国や街だ。
あたしには関係ないけど。
「それでは、あたしはこれで。リンガさん、これまでありがとうございました」
「ああ。今後も気を付けてやんな」
「はい」
あたしは窓に近寄り、窓を開けそこから身を乗り出して空へと舞い上がる。
駐機場まで飛ぼうとしているあたしに向かって魔導銃で攻撃が飛んでくるけれど、あたしの服は難なくそれを弾き飛ばす。
うんうん、さすがはヘファイストスの作った服、防御力も満点だね。
そして駐機場に着くと、ヘファイストスの周りにたくさんの兵士が倒れていた。
もう死んでいるのかな?
「ヘファイストス、もう殺したの?」
『まだ殺していない。私を鎖で縛り付けようとしたので気絶させただけだ。殺してもよかったのか?』
「さっき、ここに来るまで飛んできたときはあたしに向かって魔導銃の攻撃があったし、殺される覚悟くらいできていると思うよ?」
『そうか。では、次からは始末しよう』
うん、ヘファイストスも物騒だ。
あたしの家もいつの間にか閉まってあるし、もうヘファイストスに乗り込んでこの街を去るだけだね。
ヘファイストスに乗り込み状況を確認していると国軍のエンシェントフレームが6機もやってきた。
そこまでしてヘファイストスがほしいの?
『止まれ! そこのエンシェントフレームのパイロット! お前のエンシェントフレームには国から徴収命令が出ている!』
「徴収命令なんて知らないわよ。ルインハンターがそんなの聞くとでも思っているの?」
『貴様もこの国の民ならば国王の意思に従うのだ!』
「あたし、この国の国民じゃないんだけどな」
『この国にいる限りこの国の民だ! さあ、早く停止せよ!』
困った、まったく話が通じない。
さて、どうしたものか。
『アウラ。倒してしまってもいいか?』
「うーん。市街地での交戦は避けたいな。関係ない人たちにまで被害が出ちゃう」
『それこそ、この国の民であることが悪いのでは?』
「まあ、そうとも言えるけど……」
ヘファイストスも辛辣だ。
あたしとしてはこいつらの相手をせずに離脱したいところなんだけれど、どうしたものか。
『停止要請には応じないか。やむを得まい、あのエンシェントフレームを破壊せよ!』
停止命令に従わなければ破壊ってずいぶんと身勝手だね。
隊長機らしいエンシェントフレームの命令に従い、残りの5機が襲いかかってきた。
でも、それらはあたしたちの元へとたどり着く前にヘファイストスが作った炎の壁に行く手を遮られ、先頭の機体はヘファイストスの攻撃で跡形もなく焼き払われる。
さて、これでもまだ襲いかかってくるのかな?
「あの、まだ戦います? 次は容赦なく全機燃やしますけど」
『おのれ……構わん! 全員、魔導銃を構えよ! 街に被害が出ようともあの機体を破壊するのだ!』
街に被害が出てもって……ほかの機体も困惑して動けないでいるし、めちゃくちゃな命令をしているね。
ほかの機体が銃を構えないことにいらだって隊長機が率先して銃を構えて撃ってきたけど、まったくもって狙いが定まっていない。
一応、魔力障壁で盾を作っているけどその盾には一発も当たらず、空に飛んでいくか街を破壊するかの二択。
多分、市民の犠牲もたくさん出ているだろうし、どういう神経をしているの!?
『どうする、アウラ。このままでは街の被害が増えるばかりだぞ?』
「わかってる! それにしても、あいつ、なんて下手くそな操縦しているのよ! 銃をまっすぐ撃つこともできていないじゃない!」
『確かに。歩くことしかできない訓練兵が無理に乗っているように見えるな』
「とりあえず、あの隊長機は破壊よ! 残りは……」
『それには及びませんよ、アウラ様』
外部スピーカーから聞こえてきたのはエリクシール殿下の声。
そして割り込んできたのは新たな5機のエンシェントフレームだ。
あとからやってきたエンシェントフレームはリードアロー王国の国軍らしいエンシェントフレームを一瞬で倒し、その場に跪いた。
そして空から舞い降りてきたのは二対の翼を持った青と緑色のエンシェントフレーム。
流線型で柔らかい装甲が特徴的でサイズも一般的とされる10メートル級より少し大きい程度。
このエンシェントフレーム、ひょっとして……。
『お迎えにくるのが遅れました。私どももリードアロー王国の襲撃に遭っていまして』
「その声、エリクシール殿下?」
『はい。私のマナトレーシングフレーム『ティターニア』です。詳しいことはこの街を脱出したあとに。私の供の者たちも脱出させましたが、エンシェントフレームの護衛が少なくなっているため不安です』
エリクシール殿下ってマナトレーシングフレームを持ってたんだ。
ともかく、いまはリードアローを脱出するのが先だよね。
いろいろと大事になっちゃったけど、この国はどうなってしまうんだろう?
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