8. ゴーレム退治
「はあ。フェアリニウムゴーレム退治」
街の防衛隊に止められた後、ヘファイストスから降りて話を聞いてみると、この街道近くにフェアリニウムゴーレムが出没したらしい。
フェアリニウムゴーレムというのは妖精銀と呼ばれる特殊鉱石からできたゴーレムで、動きが機敏かつ空を飛び魔法も使えるゴーレムである。
ぶっちゃけ、あまり戦いたい相手ではない。
ゴーレムだからただでさえ重いし力は強いのに、速い、飛ぶ、魔法まで使えるとなっては戦いたくはないのもわかってはもらえるよね?
体を構成している妖精銀は妖精族やエルフ族に高値で売れるけど、割に合わないことこの上ないんだ。
「それって防衛隊でなんとかできないんですか?」
あたしに依頼を出さなくともエンシェントフレームのある街ならなんとかなるだろうと思い防衛隊の人に聞き返してみる。
すると、想像以上に嫌な返事が返ってきた。
「なんとかしようと思って戦いを挑んだが、防衛隊のエンシェントフレームを2機破壊された。今回のゴーレムは並みの大きさではなかったのだ」
えぇ……。
フェアリニウムゴーレムって基本は8メートルくらいだよね?
それより大きいの?
「今回のフェアリニウムゴーレムは大きさが15メートルほどはあった。我々が保有しているエンシェントフレームは10メートル級のみ。まるで歯が立たなかったよ」
「そんなに大きかったんですか……」
「ああ。それで、近くを通りかかったエンシェントフレーム持ちの旅人に声をかけて回っているのだが、色よい返事をもらえた試しがなくてな」
それはそうだと思う。
ゴーレムは基本的に大きければ大きいほど強い。
フェアリニウムゴーレムはただでさえ強いのに、標準サイズの2倍近い15メートル級となればまともに戦いたくないよね。
あたしだって戦いたくないもの。
「どうだろう。倒してもらえれば報奨金ははずむ。素材もすべてそちらに引き渡す。悪い条件ではないと思うのだが」
「うーん……」
そんな巨大なゴーレムとは戦いたくないのが本音。
でも、ヘファイストスの性能も確認しておきたいし、どこかで一戦交えておきたい。
ただ、初めての戦闘がそんな危険な相手というのもなぁ……。
ヘファイストスは自己再生できるらしいから、多少壊れても時間が経てば直るらしいけど、ねぇ。
『いいのではないのか、引き受けても』
「ヘファイストス?」
私が悩んでいたら左腕の通信端末からヘファイストスの声が聞こえてきた。
そういえばこの会話もヘファイストスに聞こえているんだっけ。
『ゴーレムというのは金属体モンスターのことだろう? そんなものには負けん』
「でも、強いみたいだよ?」
『我からすれば誤差だ』
強気だねぇ、うちの相棒は。
ともかく決まったみたいだし話をまとめてしまおう。
「うちの相棒が乗り気みたいですし、この話、受けます」
「わかった、助かる。……しかし、ほかにも誰かいるのか?」
「まあ、似たようなものです。すぐに出た方がいいですか?」
「そうしてもらえるとありがたい。既に商隊が襲われるなどの被害も出ているのだ」
「わかりました。道案内をお願いします」
「了解した。我々の防衛隊からもエンシェントフレームを1機出そう」
話はまとまったので防衛隊から道案内を出してもらい、フェアリニウムゴーレム退治へと出発した。
フェアリニウムゴーレムが住処としているのは森の方へと向かう街道沿いらしく、活動範囲も広いため正確な拠点の位置はわからないらしい。
ただ、希少金属を運んでいる商隊やエンシェントフレームが通りかかると必ず襲いかかってくるらしいのでそれを期待しよう。
襲われるのを待ちながら街道沿いを歩くことしばらく、急にヘファイストスが声を出した。
『む』
「どうしたの?」
『攻撃だ。先制されたらしい』
「ええ!?」
『心配するな。僚機ともども守る』
ヘファイストスが宣言するとヘファイストスと防衛隊のエンシェントフレームの周囲に赤い幕が張られ、それに魔法攻撃が何発もぶつかった。
激しい音と砂埃を舞い上げているけれど、あたしたちはまったく影響を受けていない。
防衛隊のエンシェントフレームは大丈夫かな?
「なにが起きた!?」
あ、通信が来た。
大丈夫っぽい。
「フェアリニウムゴーレムからの攻撃のようです。先制を許しました」
「そ、そうか。どうやらこちら防御壁はヤツの魔法よりも頑丈なようだな。支援、感謝する」
「いえ」
土埃が晴れ状況確認をしてみるけれど、フェアリニウムゴーレムの姿は見えない。
あっちはどこから撃ってきたんだろう?
『アウラ、敵影を捕らえた。3キロメートルほど先の上空からこちらを狙っている』
「3キロ!?」
『私にとってはたいしたことのない距離だ。だが、できるだけ多くの素材がほしいのだよな?』
「それは、まあ。できることなら多く持ち帰りたいけれど」
『では決まりだ。フェアリニウムゴーレムと思われる対象1台と、それを護衛している対象18台。まとめて撃ち落とす』
「はぁ!? 護衛しているゴーレムもいるの!」
『いるぞ。モニターに出そうか?』
「お願い」
あたしの要望に応えてヘファイストスがコクピット内のモニターに表示させたのは、巨大な1台の薄緑色をしたゴーレムとそれを取り囲むようにして浮いている18台の白く光り輝く銀色のゴーレム。
普通のゴーレムは薄暗い鉄の色だし、シルバーゴーレムはもっと鈍い銀色。
となると、考えられるゴーレムは……。
「セイクリッドシルバーゴーレム!? 18台も!」
『あれは私の時代には魔法鉄としか呼ばれていなかったのだが、いまはセイクリッドシルバーと呼ぶのか』
「素材としては聖銀鉱だけどね。でも、あれもまとめて倒せるの?」
『たいした問題じゃない。見ていろ』
ヘファイストスは右腕を突き出すと右手の甲についている魔法炎放出機を突き出した。
そして放出機の前に赤い魔力が貯まっていくと、やがて光り輝く紅い玉になり19本の矢となって飛んでいった。
ゴーレムたちはそれぞれバラバラに動いてかわそうとするけれど、紅い炎の矢はそれを追尾するように動いてゴーレムの胸部にあるコアのみを確実に打ち砕く。
セイクリッドシルバーゴーレムはすぐさま撃ち抜けたけど、フェアリニウムゴーレムは少しだけ抵抗した。
数秒の間防御壁を使って耐えただけで、そのあとはコアを撃ち抜かれて終わりなんだけど。
って、素材!
『よし、あとは回収だな』
「回収だなって! あんな空にあるものを撃ち抜いてどうやって回収するのよ!?」
『こうやってだ』
ヘファイストスは左腕に取り付けられたワイヤークローを発射すると、撃ち抜いたゴーレムたちが落下する前に次々と絡め取り、やがてすべてをつなぎ止めて巻き取った。
結果、あたしたちの前には18メートル級のフェアリニウムゴーレムと10メートル級のセイクリッドシルバーゴーレム18台が降りてきたのだ。
これには防衛隊の人も唖然としていたね。
フェアリニウムゴーレム、18メートルもあったんだ。
ともかく、フェアリニウムゴーレム退治はこれで終了。
ほかにもゴーレムがいないか確認するため半月ほど街に引き留められたけど、その分も割り増しで報酬金を上乗せしてもらえたからいいか。
フェアリニウムゴーレムだけじゃなくてセイクリッドシルバーゴーレムも全部あたしの物になったから妖精銀と聖銀鉱には困らないね。
さて、防衛隊の確認作業が終わったら王都へ一直線。
この大量の鉱石を売るあても考えなくっちゃ。
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