1章 セカイの試験
1章 冒険者になりたい!
「いまだに帰ってこないうえに連絡がこないのでしょう? 何をしているのかしらね」
孤児院を運営するフェイ院長が頬に手を当ててパパに話しかける
「さぁ、でも死んではないはずです。彼女は優秀な冒険者ですから」
そうやってママのことを話すパパは誇らしげだった。ママのことは何度か聞いたことがある。
ママは優秀な冒険者で振り回されっぱなしだったこと、今も家を出て魔獣から守ってくれてるらしい。
オベロンもママと仲良しだったらしく同じように振り回されてたって言ってた。
そんなことを楽しげにパパ達は話してくれたけど、アイラにとってはあまり良い気分にはならなかった。
パパはアイラが結婚したいと思うくらいには優しくてカッコよくて頭も良いくらい素敵な人だった。
なのにママはそんな人を置いて冒険に行った。聞く限り冒険っていうのは楽しいことみたいだから、今もパパを忘れて楽しんでいるに違いない。
きっと言い訳だ。自分が冒険者として冒険するのが好きだから、きっと冒険の邪魔だからアイラとパパを見捨てて1人で好きなことをしてるんだ。
それが許せなかった。
だからダメと言われてもアイラは冒険者になりたかった。ママを探し出して、叱りつけて、反省させた後にパパや好きな人と一緒に冒険したりしてみたい。
それで結婚して、ママと違って子供と一緒に幸せな家庭を築くのだ。
アイラはぼんやりと夢見ていた。
「あたしが冒険者になって探しに行けばすぐ見つかるのに」
「はいはい」
ここ最近の冒険者になりたいというお願いをパパは聞き飽きたと言わんばかりに受け流す。
それにもう慣れたけど、やっぱり諦めきれなくてずっと言ってた。
「ねぇパパ、お魚ちょうだい」
「え? あぁ、いいよ」
「ねぇ、今日夜更かししてもいい?」
「いいんじゃないかな」
「ねぇ、膝の上で食べていい?」
「いいよ」
「冒険者になっていい?」
「それはダメ」
パパは乗ってこない。
面白くなーい。
「お互いにしつこいねぇ」
そうやってやりとりをしているとウチにオベロンが遊びにきた。
親指ほどの大きさで背中に羽を生やした妖精という種族のオベロンは見た目自体は人間の女の子の姿をしてるけど、大きさとか綺麗すぎる羽のせいでぱっと見は虫にしか見えない。
ただそう言うとオベロンは怒る。
オベロンは前髪を真横一直線、腰ほどまで真っ直ぐ伸ばした青っぽい黒髪をなびかせキラキラと飛び回った後にアイラの肩に乗った。
「いい加減認めたら? セカイ」
女の子のような可愛い声でお姉さんのように腰に手を当てながら、逆の手をひらひらさせてパパにそう言った。
「そーだそーだ」
「殺虫剤撒くぞ」
パパはこちらを見もせず、中央から配給された缶のスープと近所のおじさんからもらった固いパンを食べていた。
「この全治の妖精であるボクにそんなこと言えるの、この国ではお前くらいだよ」
オベロンとパパは仲が良い。
オベロンが言うにはママだけじゃなくパパもかなり優秀な冒険者だったらしい。
オベロン自身も「アリスホーム」という伝説の冒険者クルーの一員だった。そんな人が実力を認める2人の娘なんだから、アイラもきっと優秀な冒険者なれるはず。
アリスホーム。アイラが生まれる前に起きた魔獣災害で貧困地域の全域を4人で救った英雄の冒険者。
貧困地域の大人はみんな救われてるから知らない人はいない。
ゼラ・アンリエット、ニーア・レイヴン、メルトリアス・アルクワース、妖精オベロン。
特にリーダーのゼラさんは圧倒的な力で全てを薙ぎ倒していたらしい。
オベロンから聞くだけでもとってもカッコよく、アイラの憧れだった
あたしもゼラさんのようになりたいと思っていた。
「てか危ないって言うけど、お前アイラの実力知ってんの?」
「知ってるも何も……アイラは戦い方を知らないだろ」
「ふふん! 知ってるよーだ。オベロンに教わってるもん。魔法とか」
そう言うとパパはアイラから視線を外して肩にいるオベロンを睨みつけた。パパの大きく綺麗な目が細くなっている。
「いや、聞かれたから教えただけだよ。別にいいだろ。そ、そもそも! このボクが人間に物事を教えるなんてありがたいことだと思った方がいい」
流石に怒らせたと思ったのかオベロンは引き攣った笑顔でそう言った。
パパの表情は変わらない。そんな時、1つ閃いた。
「そうだ! じゃあさ、あたしと戦ってよ!」
テーブルをドンと叩いてアイラはパパに向かってそう告げる。「テーブルを叩かな
いの」とパパに小声で怒られたけど気にすることなく、椅子から降りてテーブル向かいのパパの手を取り外に連れて行こうとする。
「ちょっと! いきなりなに」
「あたしが強ければ認めてくれるでしょ? じゃあ戦ってみて考えてよ!」
「えぇー……」
嫌そうな顔をするパパを強引に連れ出す。
外は明るいけれどお昼ご飯を食べる時間だからか人が少なくてちょうどいい。
「なんで戦わなきゃいけないんだよ」
「だってあたしを弱いと思ってるからダメって言うんでしょ? じゃあ勝ったら認めてよ!」
「多分アイラじゃ俺には勝てないよ。勝てたとしても……まぁそんなの考えても無駄か」
「なにそれ! 勝てるもん! パパひょろひょろだし弱そうだし!」
パパをその場に立たせたまま手を離しアイラは距離を取る。
パパは足元の小石が気になるのかしきりに足元の土を足でならしてる。そしてオベロンはその様子を少し離れた場所で見ていた。妖精らしく空中浮遊している。
「あのね、まずなんでそんな冒険者になりたいんだよ」
「あたしはゼラさんみたいになりたいの! 冒険者になって、ママを見つけてぶん殴ってやりたい! パパを置いて1人で冒険して、楽しいことをして許せないの!」
そう言うとパパは複雑そうな顔をして唇を噛んだ。
パパは器用でなんでもできるタイプだけどそういうところは不器用で、顔に機嫌がよく出る。
でも一瞬のうちに切り替わり、何か思うところがあるみたいで少し光の宿った瞳がこちらを向いた。
「分かった。じゃあ試験ってことにしよう。三刻(3分)だ。三刻のうちに俺に触れたら。俺のやってる魔法教室に入れてあげる」
パパは指を3本立ててそう言った。パパは冒険者志望の子供達向けに魔法の教室を開いて、生徒を中央の冒険者学校に推薦している。
つまりそこに入れば冒険者になれる……!
「触るだけで良いの?」
「うん、いいよ」
「やった! パパ大好き!」
「ハハハ、もしかして勝った気でいる? 全力でこないと流石に触れないと思うよ」
喜ぶアイラを冷ややかな笑顔でパパは見ていた。負けるつもりはサラサラないという感じが、より言葉に真実味を持たせる。
「大丈夫、オベロンが言ってたもん。あたし『優秀』らしいよ!」
「そうかそうか」
後ろで手を組みニコニコ顔を崩さないパパは本当に負けるつもりがないらしい。
それがより一層アイラの執念に火をつけた
「おいセカイ、お前『聖典』は?」
グッと集中が深まる盛り上がるところで確認するようにオベロンはパパに問いかけたが、「そんなのいらない」と一蹴した。
「怪我しても知らないよ……!」
『聖典』が何かは知らないけど運がいいことにパパはアイラを舐めてる。パパからは魔法も体術も教わってないから何も出来ないと思ってるんだ。
それはとても運がいい、驚かしてやる……っ!
「氷のマナよ、巡り巡りて穿ち抜け……っ!」
オベロンに習ったように大気のマナと空中に放出した自分の魔力を溶け合わせて、詠唱で形にする。
空気が冷たくなり空中に氷の粒が生まれ、集まる。
その氷の塊をぶつけるイメージを形にする……っ!
〈パチンッ!〉
指を鳴らす。それと同時に空中の氷の塊は一斉にパパの元に飛んでいく
「エコーギフト……っ!? 中級魔法っ!」
見ればパパのニコニコ顔は崩れ、驚きの表情に変わっていた。
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