異世界魔法使いベビーシッター スタートアップ
小早敷 彰良
第1話 家族
目が覚めて、ここが異世界だと知ったあのとき。私はこの世界で遊び尽くそうと思っていた。
家族が食べていくだけの肥料を無限に生み出すこともできるし、飲み水を安全に選ぶ方法も、空気から水を取り出す方法も、火薬の作り方だって知っていた。
特殊な力はなくとも、頭の中には前世の科学知識がたっぷりと詰まっている。私一人遊んで暮らすには十分だ。
この異世界が魔法があり、歪な発展を遂げた世界だと知ってもなお、その考えは頭から離れなかった。
魔法使いは少数で、王族の宝としてほとんどが王都にいる。
広大な大陸都市国家の辺境では魔法の力も届かず、生活を豊かにするために使う科学は、私にささやかな名声を与えてくれた。
口を開けば、生活を豊かにする知恵を話し、手が思うように動くようになれば、村の暮らしが便利になる道具作りに勤しんだ。
幸い両親は、我ながら不気味な子どもを、天才児と呼んで受け入れてくれた。旅に出ようとする考えを明かした時も、ならばその時までに思い出を作らなければいけないと言ったほどだった。両親には、ずっと感謝している。
あのとき私は、天才児の名前をほしいままにしながらも、体を鍛えて旅に出られる日を指折り数えて暮らしていた。
そんな二歳の誕生日、母が突然苦しみだした。
「医者のエイブラハムを呼んでこい!」
父の悲鳴のような声を背景に、私は短い脚で走った。この日、私は自分の無力を知った。どうして、速く移動するための道具を作っておかなかったのか、後悔した。
そうして、医者を連れて家に戻るとすべてが終わっていた。
「おいで。あなたの弟よ」
弟が生まれたのだ。
彼はそのとき、小さな、赤く、柔らかいものだった。二歳の誕生日、初めて弟に会えたとき、私はそう思った。部屋中の物を吹き飛ばすような勢いで、それは泣いている。
「ほら、挨拶しよう」
父が母の手を握りながら、私を呼ぶ。
私は悩んだ後、近づいてそっと、弟に指を差し出した。挨拶と言われて、反射的に握手をしようと考えたからだった。
弟は、ぎゅっと、私の指を握り返した。
作り物のような小さな手が熱く、私の指を握ったその瞬間、世界の全てが変わった。
旅をするために貯めていた金銭も、体づくりのために多めに食べていた食物も、私の物ではなく、家族のものだと心から思った。
私は、家族を守らなければならない。
その後も弟妹たちは増えていった。ある時は、身寄りを亡くした親戚の赤ちゃんが妹の一人となった。
異世界で生まれたからには楽しむ、とだけ考えていた私はもういない。ただ、家族と美味しいご飯を食べたい、そう願うのが今の私だ。
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