第23話 女王謁見① (次話は今日の18時13分に投稿します))

 「皆さん準備はよろしいですか?」


明け方、まだあたりが暗いころ、二ムリは俺たちの部屋の窓から入って来た。


「おぉ、ちゃんとドアから入って来いよ」


俺の言葉に少し苦い表情を浮かべる二ムリ。


「入ってこれない理由は昨日この町の人たちと話をして分かったのではありませんか?」


そうだった。店主さんが異様に二ムリを嫌っていた。


二ムリの言い方からして、この町の人たち全員が店主さんのようなリアクションを見せるのだろうか?


「――今はそんなことではなく、皆さんを女王の元へお連れします」



 みんなで集合し、これから出発って時に二ムリの顔はどこか曇っていた。


「どうした?」


俺の問いかけに二ムリは顔色を窺うように口を開く。


「あの、皆さんはどうしてエルフの森を救ってくださろうとしているのでしょうか? ワタクシはかなり一方的にお願いを聞いてもらってばかりなのですが……」


あ、忘れてた。


と思ったが、どうやら他の2人も本来の目的を忘れていたようだ。


「俺たちはある人を探してるんだよ」


「ある人……」


「その手掛かりがここにあるってわかったから、来たんだや」


「まぁでもエルフの森がこんなことになってんのにほっといて人探しなんてやってる場合じゃないし、できるなら助けてあげたいからな」


「そんな軽く了承してしまってよろしいのですか?」


「「「まぁ、うん」」」


三人とも深く考えていないことが手に取るようにわかる返事であった。


なんと無責任な三人組だろうか。


そんな俺らを見て二ムリはフフッと笑みを溢す(かわいい)。


「変わった方々ですね。…………ありがとうございます」




 ほどなくして俺たちは宿を抜け出し(ちゃんとお代は払っている)、二ムリの案内で女王のいる城に向かう。


道中他のエルフに出会はないように、彼女は細心の注意を払っていた。


どうやら俺の予想は当たっていたみたいだ。


店主さんだけでなく、他のエルフからも彼女は嫌われているのだろう。



 「――ここが、女王の住む城です」


たどり着いたその城は、真っ白な木で作られた西洋風の城であった。


美しく立派な外装だが、その城から放たれる魔法には生気を感じられない。


「すっごくきれいなお城」


レネは目を輝かせていた。


いかにも女の子が憧れそうな城って感じだもんな。


「早く入りましょう!」


意気揚々と門に向かって進んでいこうとするレネであったが、二ムリはレネの服の袖を掴み、引き留める。


「そっちではありません。こっちから入ります」


二ムリの指さすその方向にあったのは人がはいれるくらいの大きな下水路だった。


「本当に言ってるの?」


「申し訳ありません。正面から入るとその、何かと手続きが必要ですし…………私は歓迎されませんので」


事情を察した俺たちは、素直に下水路に向かって歩き出した。


「ち、ちなみにやっぱり臭いの?」


「えぇ」


二ムリはレネの問いかけに間髪入れず返答する。


「えぇ……」


レネは早速ハンカチを口元に当て始める。



 

 「ここを抜けると、すぐに女王の居る部屋へ着きます」


ココを抜けると?


二ムリが指をさしたのは何の変哲もない壁であった。


「隠し通路ってことだや?」


アンが壁に手を当てながら自身の予測を口にする。


確かにその可能性もあるが、それだったら俺が気づくはずだ。


魔力の流れを感じ取れる俺であるが、この壁に何か特別な魔法が掛かっているとは思えない。


「少し間違っています」


二ムリはそういうと壁に手をあてる。


「ディフォメーション」


彼女がそう唱えた瞬間、壁がみるみる変形し、人ひとり分くらいの高さのトンネルが出来上がる。


「ここに元から道があって隠してあるのではなく、この位置から道を作ると女王のいる部屋に直接つながるってわけか」


二ムリは軽くうなずくと、そのトンネルへと入っていく。


「さ、皆さん。この魔法もそんなに長くは持ちません。すぐに向かいましょう」


アンもレネも早々にそのトンネルに入っていく。


―なるほど、元から通路を作っておいてそれを隠すのではなく、ある一定の位置から魔法で道を作る……か。


なかなか考えられている。それなら俺も気づかないわけだ。


けれどそんなことをどうして二ムリが知っている?


あの娘は一体何者なんだ?


「アレン、ちょっと早く来なさいよね!」


レネに呼ばれ俺も少し遅れてトンネルへ入る。




 トンネルを抜けるとそこはとんでもなく大きな一室だった。


薄暗くあたりははっきりと見えないが、なかなか豪勢な家具が置かれている。


そしてそのどれもが真っ白だ。


「すっごく大きなベット……」


アンはこの部屋の奥に置かれているベッドを指さす。


目をやるとそれはキングサイズとかそんな次元の大きさではなかった。


大人三十人が横に並んで寝れるほどの幅に、4~5メートルほどの長さがある。


どんなふうに寝てるのか気になるが、生憎そのベットの周りはレースのカーテンが囲んでおり中の様子はうっすらとしか視認できない。


サイズ感にアースウィン全員が呆気に取られていると――


「この通路を使ってくるとは、もしや二ムリか?」


背後から突然声がする。


ドアの前にいたのは年老いたエルフの老人でであった。


――というか、背後を取られた!?


俺とアンが!?


後ろにいる者の気配を感じ取れなかったのは久しぶりだ。


「お久しぶりです、ギンリさん」


ギンリと呼ばれる老人エルフはひどく驚いたような顔をしていたが、フッと小さく息を吐くと俺たちの前にゆっくりと歩みでる。


「この者たちは?」


ギンリは俺たちを一瞥する。


「この方たちは……この方たちこそ女王にかかった呪いを解く方たちとお見受けしました!」


えぇ?


その言葉にギンリは怒りをあらわにする。


「もうよすのだ二ムリ! 女王様にかかった呪いはわれらエルフでも解けぬほどの代物。それを誰かもわからぬ、ましては魔法の真髄を全く理解しておらぬ人間などに解けるわけがなかろう!!」


「ちょちょちょちょちょちょっとまってくれませんか!?」


俺は慌てて止めに入る。


「町で聞いた話だと女王様は病で倒れたって……」


ギンリは長く伸びた白い顎鬚をさすると、俺たちを品定めするように見つめる。


「それはワシがそう伝えるように仕向けたのじゃ。女王様は病などにかかってはおらぬ、本当はとても強力な呪いにかかっておられるのじゃよ」


呪いか……病気を治すもんだとばかり思っていたが、呪いとなるとやり方も変わってくる。


「その呪いってのを見せてくれませんか?」


「――ならん!」


俺の要求は食い気味で断られる。


「人間にこの呪いは解けぬ、逆に悪化させてしまうかもしれん。 知らぬと思うが呪いとはそれだけ複雑で繊細なものなのだ」


知ってるし。


っと口をついてしまいそうになるが何とかこらえる。


「ギンリさんどうかお許しを! この方たちは今までの方たちとは違うと思うのです」


「なぜ、なぜそう言えるのだ!」


「それは……うまく言えませんがそう感じたのです!!」


えぇ、曖昧だなぁ。


ちょっぴり悲しい。


「そのような曖昧な理由で許すものか!! ――お主、誰のせいでこうなっておるのか分かっておるのだろうな!?」


ギンリの大きな声が部屋に静寂をもたらす。


「誰のせいって?」


俺は目を伏せている二ムリの肩に手を置く。


「呪いのことも知らぬようだから、このことを知らぬのも無理あるまい。 女王様に呪いをかけたのは他でもない、この二ムリなのじゃよ」


ギンリはため息交じりにそう言った。





《あとがき》


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次回は12月 25日 日曜日の12時13分に投稿します。

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