第21話 エルフの森へ


 レネが仲間になって一カ月が経った。


その間に俺たちは簡単なクエストをこなして、連携を深める訓練を積んでいた。


「ねぇ、ところでそのアンのお父さんについての手が掛かりってあるの?」


レネはギルドの食堂で不意に思い出したように言った。


「それに関しては、一個だけ行こうと思ってる場所があってな」


「どこ?」


俺は内ポケットから地図を取り出し、机の上に広げる。


「アンの父親から送られてきた本の話はしたよな?」


「あの、旅先で見つけた本を送ってくる話でしょ?」


それを聞いたアンは地図のある箇所を指さす。


「その最後に送られてきた本がここ、イブラ地方で書かれたみたいなんだや」


「イブラ地方ってあのエルフが住んでるってとこ?」


それくらいしか知らないというようにレネは少し呆けた顔をしてみせる。


「そ、だからまずそこに行ってみて更なる手掛かりを探そうってんだ」


出発は明朝、そこまで話し合って俺たちは各々の部屋へ帰る。



 「……レネは何でそんな大荷物なんだや?」


明朝、Dランク冒険者パーティ―アースウィンは人気のない広場へと集まっていた。


俺とアンは比較的軽装なのに対して、レネはパンパンのリュックに目しか出ないくらいの厚着で姿を現したのであった。


「いや、だってイブラ地方ってここからかなり距離あるでしょ? 一か月近くかかる長旅なんだから…………あ、もしかして」


何かを察したのか、レネはドサッとリュックを降ろしまだ一歩も歩いていないのにもう疲れたような表情を見せる。


「転移魔法、あるんだったわね――」






 「――ってなんてトコに転移してんのよ!!!!」


俺たちは大量の魔物に襲われていた。


とにかく走る走る走る走る。


「アンタ、転移する場所もっとなかったわけ!」


「アレン! またなんか変なことこと考えてたんだや!!」


「――っ バッカ野郎! そんなわけ……」


もちろん、俺は初めて行く場所は魔物が住みつかなそうな場所を選んで転移するようにしていたのだが……


あの、僕だって男の子。 エルフと聞いたらやっぱりその……いろいろ期待してしまうと言いますか。


どの本を読んでもエルフは美形であることが記されておりますのでね……


やっぱこう、褐色の……とか、巨乳の……とか、まぁ健全な邪な感情が芽生えてしまうわけで。


集中力……乱しちゃった。




 「この魔物たちアレンの力で何とかならないんだや!」


アンはやらないなら私やろうかというような目で問いかけてくる。


「いやいや! 流石にこの数倒しちゃったらこの森の生態系に悪影響だろ!」


今はとにかく逃げる一択だ。


「……はぁ、はぁ……もう、ムリ…………」


レネはそういうとみるみる走る速度が落ちていく。


「レネ!」


アンは間一髪レネに襲い掛かろうとしていた魔物から彼女を救い出す。


「ありがとう、アン。 けどちょっとこれは恥ずかしいわ」


アンはレネをお姫様抱っこしていた。


美少女が美少女をお姫様抱っこですかぁ……ほぅ、悪くない。謹んで俺は壁にならせていただ……


「アレン!」


アンは俺の名を呼ぶと、レネをこちらに放り投げる。


「「えぇぇぇぇぇぇ!」」


投げられたレネも俺も同じリアクションをしてみせる。


「さすがにずっと抱えて走るのは無理だや、交代制にしてほしいんだや!」


なるほど確かに、いくら俺らでも人ひとり抱えてこの数の魔物からずっとは逃げられまい。


「了解した!」


「ちょっと、アンタもこの抱え方するの」


気づけば俺もお姫様抱っこをしている。


レネは顔を赤らめ恥ずかしそうだ。


男にこれされんのは恥ずかしいよな。


「悪いとは思ってる、けどごめん」


俺は真剣にレネの目を見つめる。


「な、なによそんなにじっと見つめないでよ……」


レネの顔はどんどん赤みを帯びていく。


「この抱きかかえ方じゃないと、投げにくいんだ」


「…………は?」


目を丸くするレネ。


「すまないもう、腕が限界だ――アン!!」


「任せろだや!!」


「こんなパーティー入るんじゃなかった!!」


俺たちはラグビーボールのようにレネをパスしあいながらなんとか逃げ続けた。



 (そこは左に曲がって)


「なんだ!?」


逃げまどう俺の頭の中に女の子の声が聞こえてくる。


「どうしたんだや?」


アンが心配そうに尋ねる。


「こいつ……俺の脳内に直接」


まさか1度は言ってみたかったセリフをここで言うことになるとは……


「とにかく、ここは左だぁぁぁ!!」


その女の子の声に従うことにした。



「何とかて……巻けたみたいだや」


森の中にある小さな洞窟にたどり着いた俺たちは、ひと息ついて、腰を下ろす。


「アンタ達覚えてなさいよ」


散々投げれたレネは物凄い形相でこちらを睨みつけている。


「――良くぞここへ来てくださいました」


突然洞窟の奥から誰かの声が響き渡る。


でもそれは聞いたことのある声だ。


洞窟の奥から現れたのはとんでもなく美しいエルフの少女であった。




《あとがき》


また遅くなって申し訳ございません。orz


この作品が気になった方はぜひ、評価、フォロー、コメントしてくださるとすっごく嬉しいです!



次回は12月 18日 日曜日の12時13分に投稿します。


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