第20話 仲間になろうよ② (次話は木曜12:13投稿)

「リン!!!!!!!」


レネは外れてしまいそうなほどの勢いで部屋の扉を開く。


「――その声は、お姉ちゃん!?」


リンは声のする方向に目をやり、笑顔を見せる。


レネは噛みしめるように良かったとつぶやくと力いっぱいリンを抱きしめる。


足の不自由なリンちゃんはベットから出ることはできないが、精一杯身を乗り出して姉を抱きしめていた。


「――アレン、アン。ありがとう……妹を助けてくれて」


レネは潤んだ瞳をこちらに向けて、そう言った。


俺とアンはレネの妹リンちゃんを救い出し、宿に帰ってきていた。



 俺とアンは約1000人近くの奴隷を開放し、また奴隷市に運ばれて行きそうになっていた人たちも開放した。


流石に全員の希望の場所に転移させるのは疲れたが、彼らの今までの苦痛に比べたらなんてことない。


 

 リンちゃんはレネとの再会をひとしきり喜んだあと、眠りについた。


俺とアンは作戦成功ということで宿の食堂でささやかな宴を開く――訳もなく。


「アン、お前今回の戦闘、魔力コントロールが乱れてなかったか?」


俺はフォークを肉に突き立てながら片眉をあげ、煽るような表情を浮かべて見せる。


それに対してアンは豪快にジョッキの中身を飲み干し、力強くそれを机にたたきつける。


「それを言うならアレンだって、今回はずいぶんと敵の本拠地に入るのに手間取っていたんだや。予定より1分も時間オーバーしてるんだやよ!!」


「あれは……その、思ってたより高度な結界が張られていてだな……」


「あー----! 敵をあなどったんだや!! 一番やっちゃいけないことだや! アレンは戦いの基本から勉強しなおすんだや!」


「んだと! お前だって今回はイデアルクロスを感情に任せて使っただろ‼ 感情的に戦うなってのも戦闘の基本だぞ~」


「ちょっと、ちょっと、うるさいわよ2人とも」


そんな俺たちの元にレネがやってくる。


「何やってんのよ」


レネはため息交じりそういうと、俺たちと一緒に机を囲む。


「これアンのノート? なんかすっごい書き込んであるけど」


レネはアンが膝の上に置いているノートに目を落とす。


「いや、これはまぁ……」


「いつものことだや」


俺たちは戦闘のあと必ずお互いの動きの反省点を話合うようにしてきた。


そこで出た反省点と戦闘での気づきをアンは自前のノートに、俺はメモに記録する。


そうして俺たちは”戦い”を学び強くなってきたのである。


まぁ最近は知らず知らず喧嘩になってしまうことが多いのだが。



 それから俺たちは世間話しながら、一緒にメシを食った。


「――――あのさ、仲間になるかって話なんだけど…………」


レネはメシを食う手を止めて、切り出した。


「やっぱり、やめとく……」


俺とアンはその言葉に特に動揺することはなくメシを食い続ける。


「そっか、レネが決めることだから何にも気にすることないだやよ」


申し訳なさそうにするレネを気遣うようにアンは優しい笑みを浮かべる。


「理由を聞いてもいいか?」


俺はレネの目を見ることなくそう問いかける。


「理由……、そもそもアタシが勇者を目指す理由は妹なの」


レネは両手を机の上に乗せ、一呼吸おいて話し出す。


「アタシと妹は2人とも小さいころに読んだ絵本に出てくる勇者に憧れたの、二人でごっこ遊びもよくしたわ。いつか二人で勇者になろうって約束も…… だけどアタシは自分が劣等種であるリリメリアだと知っていくほど自信を無くし、いつしかそんな約束も忘れてしまっていた。アタシ苗字はアースウィンっていうんだけど、”アースウィン家のリリメリア”って結構有名だったみたい。でも、それでも妹は諦めなかった。自分がリリメリアだと知っても冒険者になる為に魔法の鍛錬や勉強を怠らず、リリメリアだなんて思えないほどの実力をつけていったの。アタシはそんな妹が誇らしかった。――けど…………妹は事故にあったの」


レネの手が微かに震えている。


「あれは、冒険者育成学校の入学試験の結果発表の日だったわ。リンはね、この王都で有数の名門校に首席で合格したの。――――でもその日の帰り道にリンは馬車に跳ねられた。本来ならその道は馬車が通ってはいけない細い道だったのにも関わらず、早くサーカスを見に行きたいというバカ貴族が無理やりその道を通らせたの。しかも…………その貴族はリンがリリメリアだと分かると、痛みで蹲っているのを無理やり起こして…………汚れたって……馬車についたリンの血を自分で拭き取れって…………」


レネは手が真っ赤になるほど拳を握りしめ、泣いていた。


「…………その事故のせいでリンは足を失った。そして冒険者育成学校にリリメリア入学することを嫌がった貴族たちは、圧力をかけてリンの入学を取り消させたわ。冒険者育成学校に入らなくても冒険者にはなれる。だけど足の動かない冒険者をギルドは認めてくれない。妹は夢を全部、貴族に奪われたの。この一件で”アースウィン家”は貴族たちの間で特に有名になっていってね、貴族に目を付けられたアタシたち家族はいろんな嫌がらせを受けてきたわ。………………だからアタシが勇者になって、今までの全部を否定してやるの!!」


アンはそっとリンの肩に手を置く。


「そうだったんだや……私はなおさらパーティーに入ってほしくなったんだやよ?」


リンは優しく微笑み、首を横に振る。


「ありがとう。でもね、アタシと一緒にいると絶対に”アースウィン家”っていうのが付いて回るの。それはきっと二人の旅の大きな障害になるわ。そしてきっと重い荷物になる」


レネは微笑みながらもどこか寂しそうな感じだった。


「そんなの、私たちは全然気にしないんだや――――」


「そうかわかった。またな、レネ!」


俺はアンの言葉を遮るようにして席を立つと店を後にする。


「はぁ!? アレンなにいってんだや!!」


アンはそういいながら俺の後を少し遅れてついてきた。





 「…………ふぅー」


冒険者ギルドから出てきたレネの手には冒険者登録証が握られていた。


レネはまだ、現実を受け入れられず登録証をまじまじと見つめる。



 リンを実家に送ったあと、もう一度冒険者登録をしようとギルドにやってきたわけであるが、やっぱりまたバカにされて終わるのではないかと不安になっていた。


しかし、なんと何の滞りもなく冒険者登録は終了したのだ。


「……なんか、リディなんとかってSランク冒険者の人が、私の一件を聞きつけて”今度、種族差別する奴がいたら殺す”って言ってくれたおかげで、誰もアタシの邪魔してこなかったなぁ」


もし会う機会があったら、絶対お礼しようと胸に決めレネは登録証を大切にしまう。



 「それにしても、二人には悪いことしちゃったなぁ」


レネはアンとアレンのことを思い浮かべる。


「二人とも本当に……楽しそうだった……」


レネは2人に仲間にならないかと言われたときのことを思い出してひとりでにニヤニヤしてしまう。


「アタシと仲間にかぁ、きっとそんな人たちもう一生現れないんだろうな」


レネはもし二人と一緒に旅をしたらという妄想をすると同時に、これから一人でやっていくんだという現実に胸を締め付けられる。


「だめだ、だめだ、アタシから二人をフッたんだ! だからもう1人で、そう、1人で」


気づいたら、レネは涙を流していた。


彼女は、はじめから一人でやっていくつもりだった。戦いも生活も全部一人で。


でも、ダメだった。


心から信頼し合える仲間を持った二人を見ていると、もうそれを求めてしまう。


だって、自分を受け入れてくれる存在なんて家族以外にいないと思っていたのだから…………





 「おー--い、レネー----!!!!」


遠くから聞き覚えのある声がする。――アンだ。


その後ろにはアレンもいる。


2人は物凄い勢いでレネの元へ近づいてくる。


「ちょっと、2人ともどうしたのよ! もうこの町を出たんじゃないの!?」


レネは涙がバレないように、素早く目元を拭う。


「やっぱり、一緒に旅するんだや! レネ!!」


アンはレネの手を握る。


「そうだ、やっぱり俺もレネと旅したい!!」


アレンも首を縦にめっちゃ振りながらそう言ってきた。


「さっき、冒険者登録証を手に持ってるの見えたんだや! 早速パーティーメンバー登録をしに行くんだ――――――」


「ちょちょちょちょ、ちょっとまってよ!」


レネはアンの手を振り払う。


「アタシ昨日も言ったでしょ! 二人とはいけないって…………アタシと一緒にいると”アースウィン家”ってのが――」


「あぁ、そのことなんだがな。もう大丈夫だぞ」


アレンはあっけらかんと言い放った。


「は? 大丈夫ってどういう――」


「「ステータスオープン」」


困惑するレネの前でアレンとアンは同時に自身のステータスを公開する。


Dランク冒険者パーティー【アースウィン】 アレン


Dランク冒険者パーティー【アースウィン】 アン


「……えっ、これパーティー名を……」


「これで俺たちもアースウィンだ」


レネは、少しの間呆然と立ち尽す。


「アンタ達、ばっかじゃないの! こんなの貴族が知ったら――」


「バカなのはお前の方だろう!!」


アレンは食い気味にレネに詰め寄る。


「名前がなんかで、お前の価値なんか変わるもんかい!!! 名前なんかが俺たちの旅の荷物になるもんかい!!! 俺たちは俺たちの好きな奴と冒険したいんだ!! そんなんで俺たちがお前を諦めると思ったのかよばぁぁぁぁぁか!!!」


アレンは渾身の煽り顔を披露する。


そのあまりのウザさにレネは思わず殴ってしまい、アレンは顔面を地面に埋める。


「……すっごいウザかったんだや? ごめんだやレネ。 でもやっぱり私たちレネが本当はパーティーを組みたいんじゃないかって……思って仕方ないんだや。本当に嫌なら、断っても大丈夫なんだやよ」


「……本当に、本当にいいの?」


レネはそう何度も問いかける。


アレンは地面から顔を抜き出す。


「あのな、仲間の1人が抱えてる重いもんを一緒に抱えられるってな、仲間にとって名誉なんだぜ」


その言葉を聞いて道の真ん中で、泣き崩れそうなレネを見て、アレンとアンは焦る。


「まずいんだやアレン! こんなところを見られたら、女の子を道端で泣かす男女2人組として悪い噂がたつんだや!」


「落ち着けアン! 女の子を1人で泣かすから悪く見えるんだ。俺たちも泣けばいいだけのこと」


後日、道端で号泣する男女三人組がいるというベクトルの違う悪い噂がたった。




――――レネが仲間になった。






《あとがき》


遅くなって申し訳ございません。orz


この作品が気になった方はぜひ、評価、フォロー、コメントしてくださるとすっごく嬉しいです!



次回は12月 14日 水曜日の20時46分に投稿します。

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