第18話 あまりに一方的な戦い

 俺はププラの部屋で華麗にブリッジを披露していた。


「なんだぇそれは」


ププラは困惑した表情を浮かべるも、首を横に振って気を取り直す。


「なんでもいいぇ、とにかくさっさとお前を殺すぇ」


ププラは禍々しい模様が刻印された杖を天井に振り上げると、グルグルと頭上に円を描くように腕を回す。


「お前ら一般の冒険者ではお目にかかれないものを見せてやるぇ……【ファイヤーライトニング】!」


すると、ププラの頭上に円状の雷が出現し、その雷に炎が巻き付く。


「……」


俺は無言でそれを見ていた。


「おっおっおっ、驚いて言葉も出ないぇ。これはが超絶技巧(ジン)だぇ!!!」


うん。知ってる。


超絶技巧(ジン)は複数の属性の魔法を同時に使用することを指す。その複数の魔法を組み合わせたり、バラバラに使ったり、その用途は使用者によって異なる。


……というか、これって基本中の基本の技じゃないのか。


レギのヤツ騙したな。


俺もアンもこれができなきゃ話にならないと言われ必死こいて習得したってのに。


はぁ、とため息をついている所にププラの魔法が降りかかってくる。


「死ぬぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


「マジックブロック」


俺は手首にキスをするという、動作規定を守りながら魔法を発動すると、薄水色のバリアが俺の前に張られププラの魔法はあっけなく防がれる。


「はぁ!? そんな低級魔法でおいちゃんの超絶技巧(ジン)を防いだのかぇ!!」


俺だって一年無駄に過ごしてきたわけではない。


発動に時間がかかるジレント式の魔法をどうにか短縮できないかと、日夜レギと研究していたのだ。


その結果、魔法を使う前の詠唱を一部破棄することができるようになった。


「……ごめんなぁ、遊んでやれなくて、今回は人探しも兼ねてるからさっさと済ませなきゃならないんだよ」


俺は白々しくバツの悪そうな態度をとってみる。


その挑発は見事にハマったのか、ププラの額に大きな血管が浮き出ている。


そして床に魔方陣を作り出しそこから巨大な剣を取り出す。


「これがわかるかぇ、これは魔剣ガスタス。この剣の刀身に帯びている毒魔法は即死級の強さがあるぇ! 掠っただけで致命傷だぇ!!」


なるほど、魔法戦では勝ち目無いから剣でって感じか。


あれが魔剣かぁ、初めて見たな。


俺がぼーっとそんなことを考えていると、ププラは一瞬で間合いを詰めてくるのだが――


レギの足元にも及ばない。


俺は魔剣の刀身を素手で受け止める。


「へ?」


ププラは目の前の現実を受け入れきれず、思考が止まっているようだ。


見たところこの剣にまとわりついている魔法は傷口の入り込むことで効果を発揮するものだ。


つまり、傷さえ負わなければどうということはないのだよ。


そして俺はププラの力をうまく利用して押し返す。


ププラは無様に床を転がる。


これはレギから習ったレギの開発した体術シラトリというものだ。


まぁ、元居た世界でいうところの合気道的なもんだろう。


――そこからというもの約数分間、向かってくるププラを受け流しころころと床に転がすというデイリーイベントが開催された。


 


 「――もいい!! もういいいいいぇ!!」


ププラは汚れまくった服と乱れた髪を纏いながらそう叫びだす。


「今回の任務ではV様に使うなと命令されていたが、もう我慢できないぇ」


そういうとププラは腕を広げる。


「イデアルクロス!!!!!!!」


おぉ、きたきた。


やっぱり対戦相手のイデアルクロスを見る瞬間が一番ワクワクするよな。


ププラの体を紫色の魔法が取り囲むとそれはどんどんと大きくなりこのアジト一帯をププラの魔力で覆う形となった。




 【一方そのころ】


アンは奴隷たちを転移魔方陣の場所へ先導しつつも敵の残党と戦っていた。


そんなアン達もププラの魔力が包み込む。


「なんだや、この気色の悪い魔力は」


気を取られているとアンの背後から残党が魔法を放つ。


「隙あり………………あれ?」


しかし、残党が杖を振っても魔法は一切発動されない。


それどころか魔法によって燃え上がっていた炎や、転移魔方陣、このアジトにおける魔法すべてがその機能を停止してしまったようなのである。


「魔力が、魔力を感じないんだや」


流石のアンもこの状況は予想外であるため取り乱してしまう。


ただ一つだけ効果が停止していないものがあった。


アレンがかけてくれた身体強化魔法である。


そのおかげで残党との戦闘に苦労はしなかったが、その魔法以外自身の魔法すらも使えないという状況だった。


「まさか、アレン……いや、でもこんな気味の悪い魔法じゃないんだや……」






 「おっおっおっおっ、驚いたかぇ!! おいちゃんのイデアルは”魔力の従属”お前たちの魔力は強制的においちゃんに従属した! もうおいちゃんの許可なしにもう魔法は使えないんだぇ!!!!」


ププラは杖を取り出す。その顔は勝利に満ち溢れてた。


「さぁ死ぬぇ、ライト――」


「お前はつくづく運のないやつだな」


俺はもうなんかコイツかわいそうに見えてきた。


「??」


ププラの動きが止まる。


「《グラビィ》」


俺は杖を指先で持ちながら魔法を唱える。


「だから、もう魔法は使えない――」


ズシッという重苦しい音と共にププラは床に這いつくばる。


これは重力魔法グラビィの効果だ。


「な、なんでどうして、どうして魔法が使えるんだぇ!!!!!!!」


ププラは地面に這いつくばり名が必死に顔をこちらに向けてくる。


「ほんとに運ねぇよお前は……お前のイデアルは従属だろ、俺のイデアルはその上なんだよ」


ププラはふぅふぅーと息巻きながら、何かを言おうとするがなんせ強力な重力によって呼吸が細くなっているため、うまく言葉が出せない。


「なぁ、ちょっとゲームしようぜ」


俺はそういうとププラの部屋の隅にあるベッドを指さす。


「あのベットの触れることができたらお前を見逃してやるよ。その強力な重力を背負った状態でな」


ププラの背中に座る。


「ほらほら、早くしないと内臓押しつぶされるぞ」


ププラは吐血しながら、必死にベッドの方へと体を寄せていく。


しかしどんどんと強くなる重力に、もう息もままならない。


ププラはもう許してくれと言わんばかりの目で俺を見つめてくる。


「ん? どうした? お前のやってた駆け掛けって遊びを模しただけだろ? たまにはプレイヤーになってみるのもいいじゃないか」


その言葉を聞いて、ププラは目を見開き今までより必死に動く。


なぜならこいつが駆け掛けがどういう遊びかコイツ自身が一番わかっているからだ。


だが根性を見せたのか、ププラは中指の先でベッドに触れる。


「フン………………フン!!」


もう言葉を発せない彼は目で必死に訴えてくる。


「……………………」


「フン! フン!」


「……………………」


「フンフンフン!!!」


「なんだよ? お前まだ早くベッド触れよ」


ププラは自身の指の先を見る。するとププラが触れていたのはベッドではなく、床に落ちていた本であった。


「最初のブリッジ覚えてるか。あん時この部屋に幻惑魔法をかけておいたんだ」


動作規定のためブリッジしたが、幻惑魔法マドロミによってこの部屋を俺の思うように見せることができるようになっていた。


レギに習った魔法戦闘での基本の【まず有利な場所を作りだしてから戦え】である。


「ほらどうした、ベッドまでまだあるぞ」


本当のベッドにはあと5メートルほど距離が開いている。


「ぶぇぇぇぇぇぇぇぇんん」


ププラは吐血しながら嗚咽しながら泣きわめく。


「お前はな、なんも悪いことしていない人たちをこんな風に苦しめて殺してたんだ。わかるか? 反省したか?」


俺の問いかけにププラは渾身の力で首を縦に振る。


「よし、反省したみたいだな。えらいぞ」


俺はププラの頭を撫でる。


「んじゃ死ね」


そういって俺はププラの背中から降りると、杖を向ける。


彼は必死に何かを訴えたそうにしていたが、俺はもう目も合わせない。


闇魔法亡者の糾弾


床に這いつくばっているププラの影から恐ろしい亡者たちが現れる。


ププラは悲鳴を上げるが、それはもう誰にも届かない。


「これはお前は今まで殺してきた、お前に恨みを持つ亡者たちだ。いまからお前にはこの亡者たちと同じ殺され方をしてもらう。つまり1359回殺されることになる」


ププラは涙を流し尿を垂らし、何かを叫びながら亡者と共に影の中へ沈んでいった。







《あとがき》

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次回は12月 07日 水曜日の20時46分に投稿します。

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