第9話 リディアの秘密とイデアルクロスについて

「……その力、やはりあの噂は本当だったんだな」


アーガスの仲間たちは一瞬にしてリディアに倒されていた。


「噂ってあの黒い炎のことですか!?」


アーガスの側近の1人が、息を切らして尋ねる。


リディアの謎の力に翻弄され、アーガス一行は彼女に傷1つ付けれずやられていく。


「ほぅ、お前程度でもこの力のことを知ってはいたのか?」


リディアはわざとらしく感心、感心と口走りながら拍手する。


「しっかりして下さい! なんなんですか!? あの女の力ってのは」


諦めたように立ち尽くしているアーガスの両肩を掴み、側近は問いかける。


アーガスは力の抜けた弱々しい口調で話し出す。


「あれは……あれはな、特異魔力イデアルクロスと呼ばれる、己の力を極限まで磨き上げた者だけが手に入れられる力だ」


「イデアル、クロス……」


「そうだ、通常、魔力ってのは魔術式や呪文、杖を使って魔法に変化させることで事象を捻じ曲げることが出来る。だが、特異魔力イデアルクロスは純粋なそいつ自身の魔力だけで事象を捻じ曲げちまう。それ故に特殊で強力なんだ……俺らみたいな凡人が太刀打ちできる相手じゃないんだよ!」


アーガスはそう言うと素早く自身の杖を抜き魔法かける。


ビリート痺れよ


しかしそれはリディアではなく側近に向けられていた。


側近は口から泡を吹き、力なくその場に崩れ落ちる。


それを見たアーガスは膝を地面に着き、リディアに懇願する。


「頼む、俺を助けてくれよ!こいつは俺の側近で裏社会でも中々名が通ってる。こいつを差し出せば結構な金になるはずだ! だから……」


リディアは近くの岩に腰掛け、その命乞いを気だるそうな顔で聞く。


「……どうだ、悪くない話だろ」


アーガスは瞳孔を目一杯広げてリディアを見つめる。


「……まったく」


リディアはアーガスに微笑む。


それを見てアーガスは安心したように満面の笑みを浮かべる。


「全く面白くない提案だ。却下。 お前はここで死ね」


リディアの顔から笑みが消える。


「くそぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


アーガスは立ち上がり思い付く限りの魔法をリディアに放ち続ける。


しかしどの魔法もリディアの黒い炎によって焼き尽くされてしまう。


「無駄だよ。私の特異イデアルは燃焼。 私の魔力に触れたら、例え魔法であろうと燃やされる」


その夜、情けない叫び声と共に、アーガス達はリディアによって焼き殺された。


「アーガス……やっぱお前Aランクじゃないじゃないか。Aランクがこんなに弱いわけないもんな」


アーガスの持っていた冒険者証明書は偽造されたものであった。





《数時間後》

 




「ここか・・・」


リディアは村にたどり着く途中の森から異常な魔力残滓ざんしを感じ取って進路を変更し、アレンがキングゴブリンを討伐した現場へと赴いていた。


「うーん、この残骸…… キマにでもやられたのか」


キマとは四足歩行で火を噴くドラゴン種の怪物で、キングゴブリンと同程度の難度の怪物だ。


ほぼほぼ灰になって焼き尽くされたその残骸はおそらくキングゴブリンと思われるが、リディアはどこか違和感を感じあたり周辺を散策することにした。


「しかし、キマにしては被害が少なすぎる。 まさかAランク以上の冒険者がこの辺鄙な森にいるとは思えないし」


そんなことを考えていると、一本の腕が落ちていることに気づく。


「これはキングゴブリンのものか」


真っ青な肌に巨木の幹を思わせる太い腕がそのまま落ちていた。


アレンの魔法の勢いで吹き飛んだのだ。


リディアがキングゴブリンを討伐した者の正体を暴こうと腕を触った瞬間――


「きゃ!」


リディアは乙女のような悲鳴を上げて腕をひっこめる。


「これは………………キングゴブリンなんかではないぞ……それよりももっと上の」


このとてつもない邪悪な魔力を彼女はよく知っている。


こいつはあのSランク冒険者をも葬った伝説的な怪物。


「キングオーガ…………」


リディアは思わず息をのむ。


「この怪物を葬った人間がいるということか……」


リディアは自身の魔力感度を最大に上げ魔力残滓から、ここで魔法を使用した人物を探ろうとするが――


「ひゃうぅぅぅぅぅ」


突然下腹部に強烈な刺激を感じて、その場に倒れこんでしまった。


「こ、こんなの初めて……なんて、なんて濃厚なまりょくぅぅ♡」


彼女は人前では決して見せることのない真っ黒な翼を背中から生やし、バサバサと動かす。


そう、彼女は人間とサキュバスのハーフなのである。


サキュバスの習性で濃い魔力を持つ人間に強い劣情を抱いてしまうあった。


リディア自身が強すぎるが故に今まで自分より濃い濃度の魔力に出会ったことはなかったのだ。


純粋なサキュバスであれば人間的な感情はないため人間を性の対象には見ても、恋愛対象にはならない。


しかしリディアは半分人間であるがために、劣情と同時に恋心を抱いてしまうのであった。


「ぜったい…………絶対見つけてみせるわ。私のダーリン♡」


リディアが今までと少し違う理由で、ライラ村へ向かおうとした時――


リディアの元へ魔道通信が入る。


「……なんだララか。私は今忙し――」


「こぉら!!!!!! 聞いたぞリディア! お前歓迎会を抜け出したんだってな!!」


リディアはフンっと鼻を鳴らす。


「あんな茶番に何故私が付き合わなきゃならんのだ」


「そういう問題じゃないだろバカ! 王様と私達Sランク冒険者の面子を潰すなつってんの!」


大きな声で怒鳴るララに対してリディアはへぇへぇと適当に相槌を打つ。


「――はぁ、まぁ王様には私からも謝っとくから。 今日の報告会にはちゃんと出席しなよ」


「あー、めんどくせーな」


半年に1度各国からSランク冒険達が集い、自国についての情報共有する場が設けられる。


「めんどくせーじゃなくて! 今回はウチが主催国になるんだから絶対参加してもらうわよ。もし今日も欠席したらホントに冒険者資格剥奪になるからね!」


「――はぁ、わかってるよ。行くよ」


リディアはまだ何か説教したそうなララを無視して、一方的に魔道通信を切る。


「あぁ、待っててねダーリン♡。絶対見つけて見せるから」


リディアは胸に両手を当てて夜空を見上げる。


その仕草は恋をした乙女のようであるが、その顔には色情的な笑みが浮かんでいた。



《あとがき》

この作品が気になった方はぜひ、評価、フォロー、コメントしてくださるとすっごく嬉しいです!


次の話は 11月06日 日曜日 20時46分に投稿予定です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る