第6話 無意味なパーティー

《そのころ宮殿では勇者歓迎パーティーが開かれていた》


「失礼いたします。私はAランク冒険者パーティー”華剣”のリーダー ジュリア・ファンと申します。勇者様にぜひお見知りおきを」


煌びやかな衣装をまとったジュリアは賀口達に向かって丁寧なあいさつをする。


「フンッ」


賀口はろくに目も合わせない。


「抜け駆けはよせ! 勇者様、俺はAランク冒険者パーティー”ラガン”の――」


みな将来活躍することが約束されているクラスメイト達とお近づきになろうと、我先にと話しかける。


しかしただ一人だけ、その輪に入らず退屈そうにしている女冒険者がいた。


「はぁ、くだらねぇ。勇者つっても実践経験のないガキじゃないか」


彼女は史上初のソロでSランクに到達した王国最強の女性冒険者リディアである。


彼女はその実力と美しさからパーティーの誘いも多いのだが、すべて断り、また恋人も一切作らない。


自身の実績を上げることを最優先にしてきたのだ。


「おい、聞こえるか私だ」


リディアは王都にある冒険者ギルドへと魔道通信を繋げる。


「あぁ、リディア様! どうされました? そちらは今歓迎会の真っ最中なのではないですか?」


もちろんリディアの存在はギルドでも有名であるため受付嬢も声ですぐに理解する。


「いや、来たはいいものの本当に退屈な会だ。何が悲しくてあんな世間を知らないガキどもに頭を下げなきゃならんのだ」


リディアは葉巻を一口吸うと、はぁとため息まじりの煙を吐く。


「まぁそういわずに、勇者様といい関係になれたら将来は安泰ですよ♪」


「本当かね? アタシはどうしてもあいつらが魔王を倒せる器だと思えないんだよ」


「それってどういう――」


「――まぁいいさこの話は。 それよりもいいクエスト依頼は来てないのかい?」


リディアにとってはこんな歓迎会よりもクエストに行って実績を上げることの方が優先度が高い。


「ん~、リディア様に見合うような難度のクエストは別にないですね。 あ、でもなんかいたずらかわかりませんが、キングゴブリンの討伐依頼~みたいなのがきてましたね」


「は?」


「いやぁ、オークならまだしもキングゴブリン出現なんてありえないですよね。 すぐにギルドマスターが処分――」


「バカ野郎!」


あまりに大きな声で怒鳴るリディアに驚き受付嬢は言葉を失う。


「あのバカギルドマスターは私の報告書を読んでないのか?」


「あ、ギルドマスターはいま休暇中でして……」


「無能め、魔王軍の動きがないからと言って警戒心がなさすぎるぞ!」


リディアは最近ゴブリンの動きが妙に統率がとれていて怪しいとギルドに報告したばかりであった。


「クエスト依頼してきた場所を教えろ! 私が向かう」




 リディアは従者に預けていた装備を受け取ると会場の出口へと向かう。


「ちょっと待ってよおねぇさん♪」


リディアの腕をつかみ引き留めたのは山理であった。


「なん……ですか?」


リディアは精一杯の敬語で対応する。


そんなリディアの体を山理は舐めまわすように見る。


「この世界には美人が多いがあんたはその中でも別格だ。俺の一番の女にしてやってもいいぞ!」


この世界に来てからというもの自分の立場を使い散々女遊びをしてきた山理にとって、その誘いは最上級の好条件であった。


そう言ってしまうほどリディアは美しい。


身長は170cm近くある長身で細身であるが、胸は大きかったり、いわゆる男が求める箇所にはしっかり肉がついている。


他の冒険者からは「よくあんな細身で剣を振り回せるもんだ」と不思議がられていたりもする。


肌は純白の陶器肌で、光が当たると反射してもやがみえるほどだ。


つり目がちな目の色はエメラルド色で眉は細い。鼻が高く、血色の良い唇はふっくらとしている。


黒髪のポニーテールから見える右耳にはレジと呼ばれるガーネット色の宝石が付いたピアスがついている。



「……申し訳ない」


リディアは山理の誘いを一言できっぱりと断ると山理に背を向け歩き出す。


「は、この俺の誘い断るとかあんの? 安心しろよ俺のテクニックにかかればどんな女もすぐにイカせらるからよ。気の強そうなお前もすぐ俺の虜に――」


リディアは山理に背をむけたまま立ち止まると顔を横に向け、目だけ山理の方へ向ける。


「……品のないガキが、今ここで死にたいか?」


「ひ、ひぃ」


うっすらと笑みを浮かべるその表情は山理からは顔の半分しか見えなかったが、どこか狂気を感じた。


リディアの凄みに山理はそれ以上言葉を発することができなくなる。


会場にいた冒険者たちはその殺気を感じ取った瞬間、顔つきがガラッと変わり武器を取り出す。


それもそのはず、今ここでリディアが暴れたらここにいる高ランク冒険者全員でかかっても止めれるかわからない。


恐らくほとんどが死ぬだろう。



 賀口はそんな冒険者たちを不思議そうに見つめる。


さっきまで和気あいあいと話していた彼らの武器を握る手は震えており、額からは脂汗流れている。


確実に何かに怯えている目をしている。


「あの女一体何もんだ?」


ここにいる王国屈指の冒険者達ですら恐れる存在。


賀口はリディアに興味を抱く。



 「……冗談だ。そんなにマジになんなよお前ら」


リディアはそういうと腰を抜かし無様にしりもちをついた山理に一切目もくれず、会場を後にした。


会場には安堵の空気が流れる。



 「依頼主はライラの村か。 アタシの馬でも一週間はかかるだろうな」


リディアは全速力でキングゴブリンの討伐へと赴く。




《あとがき》

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次の話【第7話 討伐前の・・・】は10月26日水曜日の20時46分に更新される予定です! 

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