第6話 理系のカノジョに理詰めで告白されたけど、容易く論破してやった件 6/6
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……。
…………。
………………。
………………はて?
これは一体、どういうことだろう。
ボクは死んだはずだ。ボクの物語はこれで終わりだったはずだ。
奇麗さっぱり終わったはずだ。
劇場公開されるレベルで感動的に終わったはずだ。
それなのに、意識がある。
まさか、噂に聞く死後の世界というやつか。
実在するとは思わなかった。
「やぁ、久しぶりだね。愛しい人」
聞き覚えのある声。
あることはあるのだが、少し違うような気もする。
目を開けても、ぼんやりとしか見えない。
「意識はあるかい?」
「……ああ」
「それは結構。しばらくの間は話すことも難しいだろう。だから、私の話を一方的に聞いてくれればいい。軽い返事くらいはしてくれると嬉しいけどね。さて、久しぶりだし、自己紹介からしておこうか。私の名前は姉川聡子。センセイの恋人だ」
姉川聡子。
ボクの愛しい人。
だが、なぜ彼女がここにいる?
そもそも、ここはどこなのだ?
ボクは、生きているのか?
「ああ、生きているよ。戸籍の上ではどうだかわからないが、生物学的には生きているはずだ。これからいろいろと検査をさせてもらうことになるだろうが、たぶん改めて死んだりなんてことにはならないと思う」
姉川を名乗る声は、嬉しそうに言う。
それはうれしいが、今の発言でさらに疑問点が増えた。
ボクは一言も話していないのに、なぜ会話が成立するのだろう。
「それについては、簡単な話だ。センセイが死んでから10年ちょっとが経過した。その間に私は、超能力研究所という機関に勤めることになった。そこでできた知り合いの中に、対象の思考を読み取れる者がいてね。そいつに協力してもらっているんだ」
超能力者。
そうか、ボク以外にもいたのか。
だが、それはそうとして――ボクはなぜ生きているんだ?
「ようやく聞いてくれたね。それじゃあ、張り切って説明しよう。要は、これはセンセイの物語であるとともに、私の物語でもあったということだよ。この天才たる私が、ラブコメに甘んじるとでも思っていたのかい? 死んで綺麗にまとまる十把一絡げの恋愛ドラマになるとでも? 残念だったね! 私に出会ってしまった時点で、センセイの物語はラブコメからSFへと変異したんだよ」
一体、何をしたんだ?
ボクの身になにが起きた?
「何、大したことはしていない。センセイの予知夢はほぼ確実に現実のものとなる。だから、センセイは甘んじて死を受け入れた。まぁ、そこまでは仕方がないね。私としても、そこまでは仕方がない思っていたところだ」
でも、ボクは生きている。
予知は外れたのか?
「いいや違う。センセイの予知は、普通に当たった。センセイはナイフで刺され、命を落とした。最善は救急車で病院に行き、そこで命を拾うというものだっただろう。だけど、残念ながらそれは叶わなかった。叶わぬ願いだった。で、そこで天才たる私が諦めるかと言うと、そんなわけがない。私は考えたんだ。『どうしても死んでしまうのなら、生き返らせればいい』と」
生き返らせればいい?
ドラゴンボールじゃないんだから、そんなことが出来るはずがない。
「不可能を可能にするのが天才のお仕事さ。センセイは『クライオニクス』という言葉を聞いたことがあるかい? ないだろうね。要はコールドスリープと似たようなものだ。コールドスリープが生きたまま人を冷凍保存する技術であるのに対し、クライオニクスは死体を冷凍保存する技術だ。勿論、冷凍保存したところで細胞がボロボロになるし、生き返ることは困難だ。だが、その困難をねじ伏せる超常の力がこの世には存在した。そう、超能力だ。私は超能力研究所の人間として、様々な超能力者に会ってきた。そして、イギリスで出会ったんだ。センセイを生き返らせるのに必要な能力を持った超能力者と。そして、交渉の末、彼女の能力を使わせてもらうことが出来た」
理解が追い付かない。
『どうしても死んでしまうのなら、生き返らせればいい』
どうしてそんな発想になるというのだろうか。
ボクは彼女のことを完全にコントロールしたつもりでいた。
だが、彼女はボク程度の思考の枠には収まらなかった。
ボクはまだ、天才というものを理解できていなかった。
あるいは――。
彼女の愛の重さを理解できていなかったのかもしれない。
「さてと、それじゃあ、無事生き返ったところで確認したいことがある。あれから十年くらいが経過したわけであり、私たちはその間、一切の会話をしていなかった。そんな二人の関係は、恋人同士ということが出来るだろうか」
目覚めたばかり。
というか、生き返ったばかりで、頭が働かない。
「ま、そんなことはどうでもいいんだよね。なぜなら、私たちの間にはあの時の約束があるのだから」
「……約束?」
「ああそうだ。破ることの出来ない最重要の約束。それじゃあ、懐かしい言い方で言ってみようか」
その天才少女だった女性は、ボクに微笑みかけた。
視界ははっきりしないが、それは感じ取れた。
確信をもって。
とても幸せそうに、とても満足そうに。
それは勝利の笑みだった。
「私は1%を引き寄せました。つきましては、約束に基づいて私のものになってください、先生」
ボクはその提案を断ることは出来なかった。
自分の言ったことには、責任を取らなければならない。
それは紛れもなく、ボク自身の言葉なのだから。
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