第7話 隣家の完璧美少女が変態であるわけがない 1/4

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 さて、ゴールデンウィークが終了し、高校生活が再開した。


 まだ高校入学してから一か月しか経っていないが、登校するのが面倒になってきている。

 受験の時はそれなりに苦労して、ようやく合格した高校であるはずなのだ。

 だが、すでにやる気は底をつきかけていた。


 そもそも、特にやりたいことがあって入学したわけではない。

 将来の夢ではなく現在の偏差値とだけ相談して決めただけ。


 だから、当然と言えば当然と言えるのかもしれない。

 むしろ、これまでやる気があったことのほうが奇跡だ。。


 だけど、そんな高校生活にも一つ変化が訪れた。

 予想――というか、期待をしていた通り、霧ヶ峰さんがぼくのいるクラスに転校してきたのだ。


「皆様ごきげんよう。私は、霧ヶ峰カスミと申します。、どうかよろしくお願いいたします」


 ちなみに、これは霧ヶ峰さんの第一声だ。

 一応言っておくが、ぼくが通う高校は『聖なんちゃら学園』とかいう類のお坊ちゃまお嬢様の通う学校ではない。そもそも、そんな学校は県内には存在しない。だから、この発言は場違いと言うほかない。


 だが、クラスの反応はおおむね好意的だった。


 さもありなん。

 今日の霧ヶ峰さんは、凛とした姿勢で教卓の前に立っていた。

 その上で、自然な微笑みを浮かべている。

 その姿は、いいとこのお嬢様と言われても何の違和感もない可憐な少女そのものだった。

 この前家で一緒にゲームをした時とは別人と思えるほどだ。


 加えて、この自己紹介である。


 やんごとなきお嬢様が身分を隠しながら庶民の学校に御忍びで通う。

 そう誤解する者がいてもおかしくない。

 高校生活にいらぬ幻想を抱いている奴なんて、特にそう信じ込んでしまう危険性がある。


 その結果――。

 霧ヶ峰さんは一躍クラスの中心的人物となっていた。


 本気で霧ヶ峰さんのことをやんごとなき身分のご令嬢だと思っている者は少ないだろう。

 だが、彼らにとってはお嬢様っぽいというだけで十分なのだ。


 純情可憐な深窓の令嬢。

 理想に近い容姿。

 主に男子生徒たちが、霧ヶ峰さんを放っておくはずがなかった。


 霧ヶ峰さんはみるみるクラスに打ち解けていった。

 転校してきた初日のうちに、ぼくよりもクラスに溶け込んでいた。

 態度や言葉遣いが異様に丁寧ではあるが、それはそういうキャラと言うことで受け入れられているようだ。


 その様子を見ていて、ぼくは少しだけうら寂しくなっていた。

 霧ヶ峰さんは、きっとこれから人気者として楽しい学校生活を送ることになるのだろう。


 対して、ぼくを待っているのは何も起きない平凡な高校生活だ。

 特にやりたいこともなく、かといって大問題に直面しているわけでもない。


 将来のことを考えると、言葉にしづらい焦燥感にかられることもある

 だが、概ね平和な毎日と言っていいだろう。


 そう思うと、少しだけ、いや、かなり鬱屈とした気分になった。


 面倒ごとは起きてほしくない。

 だけど、人生に価値を与えるような何かが起きてほしい。

 この時のぼくは、そんなことを考えていた。

 考えてしまっていた。


 そして――。


 その思いに呼応するかのように、事件は起きた。

 

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