第42話


かちゃりと扉を開けてバスルームを出る。クロピーの衣装に身を包んだ梶原がソファに座ったままこっちを見て、そして少し目を見開いたのが分かった。


(似合ってないよな……)


そう思って、この場を笑いにしようとした。


「いや~、やっぱ私、ピンクリボンフリル、ってガラじゃないわ~。なんかピエロみたいだよ」


そう軽口をたたいて、ははは、と笑う。それに対して梶原が、食らいつくように叫んだ。


「な、何言ってんだ! めちゃくちゃ似合ってるって! ちょっとびっくりするくらい似合ってるって!!」


あまりにも真剣な顔をして叫ぶもんだから、鳴海はちょっと面食らってしまった。


「え……っ? かじわら……?」


「あ、……いや……。そ、その衣装を着ると、誰でもキッティになれるんだな、……って思っただけ……」


あっ、なんだそうだよね。真面目にこの衣装が鳴海に似合ってるなんて思ってるわけじゃないよね。流石衣装の力は凄いなあ。


「はは……、お世辞でもありがとう。今度何かピーロのコスプレ企画があったら、由佳を巻き込めないか、考えるね」


「い……、……いや。俺は……、べ、別に、生田を巻き込もうなんて……」


そう言って梶原は真っ赤になった。


おやおやどうした、恋するDK。もしかしてこの衣装を着た由佳を想像しただけで、頭がショートしちゃったのかな。ホントに梶原は由佳のことが好きだなあ。だったらこのまま契約を続けていたって、梶原の気持ちは由佳に誤解されたままなんだから、ちょっと胸は痛むけど、おぜん立てをしてやったほうが良くない? と鳴海は考えて、契約のことを由佳に打ち明けようと決めた。煮え切らない梶原だって、告白しないまま卒業することはないだろう。その時に、由佳に鳴海が梶原の彼女だと思われていると、由佳に誤解をされかねない。それは避けたい。


「あはは。だって由佳と写真撮れた方が、梶原だって嬉しいでしょ。何とか考えてみるから、まあ任せといて。それじゃあ、さっさと写真撮って、フロントにお茶運んでもらえるよう電話しよっか」


鳴海が言うと、梶原が耳を赤くした。いいねえ、恋するDK。全く素直で羨ましい。鳴海は内心ため息を吐きながら、コンソールテーブルに乗った電話の受話器を取った。けれど、それを梶原が止めた。なんだ? 豪華なティーセットたちと一緒に優雅なお茶風景の写真を撮りたくないのか? そう思ったら、梶原は鳴海の、受話器を取ろうとした手を握ったまま、全く見当はずれなことを言った。


「せ、折角だからよ、もう、ちょっと……ゆっくりしねーか? その……、……あの時のクロッピとキッティみたいに……よ……」


はあ? この企画はあくまでも梶原にクロピーになり切りをさせて、満足してもらうための企画であって、そこに鳴海と一緒にゆっくりするという案は含まれていなかった。クロピーになり切っただけでは満足しなかった? やっぱり由佳を巻き込んだ方が良かったのか。鳴海の脳内は、完璧な計画から逸脱しようとする梶原の考えが分からなかった。


「……かじわら?」


梶原が鳴海の手を引く。キッティのフリフリの洋服はボリュームがあって、梶原のいざないの邪魔になった。クロピーの衣装を着た梶原が、大きなソファの前に鳴海を連れてきて、多分、座らせようとする。なんで鳴海に対してそんなことしてんだ、この人。そんなことを思っていた、その時。

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