第17話
「ねえねえ、生田さん、市原さん」
由佳と机を囲んでお弁当を食べていたところへ、教室の後ろで『TAL』について語っていた女子の一人が肩を叩いてきた。どきっと肩を跳ね上げた鳴海と違い、由佳は穏やかな顔で彼女に応じている。
「なあに? 香織ちゃん」
「生田さんたち、このゲームやったことない? 今、世のJKの間でめちゃくちゃ流行ってるやつ!」
声を掛けてきた河上香織がスマホに表示させて由香に見せたのは、今まさにバージョンアップされた衣装で微笑むウイリアムが微笑む『TAL』の一画面だった。画面を見る為に、油の切れたゼンマイ仕掛けの人形の如く首をぎこちなく動かし、その画面に表示されているウイリアムを見た時、鳴海は昇天するかと思った。
(と……っ、尊い……っ!! 画面から光の粒がほとばしっている!! 美しい白の絹のような光沢のある生地に金の縁取りを添えた、気品と威厳を備えた新しい衣装は、やっぱり王子オブ王子のウイリアムにこそふさわしいわ……っ!! ウイリアムがこんなに素晴らしい衣装を頂けたんだもの、きっとテリースだって漆黒の王子のような、天鵞絨の艶を模した衣装を頂けているに違いないわ……っ!! 製作スタッフさん、GJ!! グッジョブよーーーーーーーっ!!)
と、この間一秒。鳴海の前で由佳は申し訳なさそうに、ごめんね、と香織に謝った。
「私、ゲームとかあんまりしなくて……」
「あー、生田さんは分かるわー。どっちかっていうと読書とかクラッシックとかが好きなんでしょ。映画もフランス映画とか」
「うん、割とそんな感じ……」
「だよねー! 聞いた私が悪かったわ。市原さんは梶原くんという彼氏が居るんだから、架空のイケメンなんか目じゃないだろうしね。愚問よね」
話の矛先が鳴海に向いて、鳴海は椅子から半分飛び上がったが、どうやら仲間には入れてもらえなさそうだった。
(ちぇ……っ、つまんないの)
ちょっとだけそう思ってしまっても仕方ないだろう。梶原とは契約を元に結ばれている同志であるだけだし、さらに言えば、卒業式までその関係を続けたい鳴海の企てについては何も話していない。心の中で血の涙を滲ませても、香織の会話に応じることは出来なかった。
「う……、そうだね。まだ新鮮な事ばっかりで……」
そう取り繕うのが精いっぱいだった。
(仲間に入りたい……。でも、下校してからじゃないと見れないと思ったウイリアムの正装姿を予定より早く拝めたから、午後の授業も頑張れるわ……!!)
やっぱそうだよねー、作り物はリアルには敵わないよね! と香織が明るく笑って言うと、やっぱりそういうもの? と、香織の後ろから栗里が顔を出した。
「そのゲーム、僕、知ってるよ。『Take Away Love』だよね。中学の時に、登場人物が僕に似てるって言って清水に嫌って程、画像見せられたからさ」
「へ、へえ、そうなんだ」
鳴海が返事をすると、由佳が、
「そう言えばこの男の人、どことなく栗里くんに雰囲気似てるね」
と言った。由佳の言葉に香織も、あっ、と言って、そう言えば似てるっちゃー似てるね! と由佳に同意をした。
……そうか? 仮にも女の子を振り向かせたい動悸が狩猟本能と同じと言ってしまう栗里と、テリースへの愛に一途な最推しのウイリアムが似ている筈がない。ウイリアムは黒いところなど一点もなく、純粋にテリースを愛しているのだ。その性格にも愛にも、微塵の汚れもない。
……という疑問が顔に出てしまっただろうか。栗里に、賛成しかねる、って顔してるよ、と指摘された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます