第14話
「まず、フロントで落とし物がなかったか聞いてみよう」
女の子たちがこの会場に来るまでに立ち寄った場所が、地元の駅の後だと、最寄りの地下鉄の駅からピーロショップに立ち寄り、そしてそのあとホテルに来ていた。
ロビーまで降りてフロントに落とし物を尋ねたが、それらしいものはなかったと言われてしまった。……となると、ピーロショップか駅になるが、鳴海はピーロショップの場所を知らない。60分後というタイムリミットもあるから、ここは手分けした方がいいのではないかと梶原に申し出た。
「そうか。じゃあ、駅に行ってくれるか? 俺はピーロショップを当たってみる」
「分かったわ」
鳴海はそう言って、30周年限定のシナロールの巾着袋と、ピーロショップと人気漫画家がコラボしたキーホルダーをスマホで検索して梶原に柄を確認すると、ホテルを離れた。途中でピーロショップへ行く梶原と別れ、地下鉄の駅へ向かう。駅入り口の階段を駆け下りると真っすぐ改札の駅員を訪ねた。しかし駅員にスマホの画像を見せても心当たりがないという事だった。駅員が、
「落とし物でしたら、駅長室に届けられてるかもしれません」
と教えてくれたので、駅長室も訪ねてみる。しかし此処でも空振りだった。そこへ梶原からメッセが届く。
――『どう?』
――「だめ、ないわ」
――『こっちも駄目だ。ショップには届けられてないってさ。誰かが持って行っちまったのかな』
そうだとしたら、あの女の子はどれほど悲しむだろう。鳴海がもし推しのキーホルダーを無くしたら(しかもそれが限定品だったら)泣くに泣けない。そんな思いを、推しを持つ子にして欲しくない気持ちでもう一度考えてみる。何か見落としている場所はないか。あの女の子たちが行きそうな場所……。そう思って、鳴海は彼女たちが着ていた服を思い出した。ちょっと普段着ではなさそうなかわいいワンピースを色も合わせてお揃いで着ていた。あれは絶対『双子コーデ』だ。となると、身なりに相当気遣ってきている筈だ。
鳴海は駅のトイレをくまなく探した。改札に近い所から、三つある出口に向かう通路に設けられた多目的トイレまで全部調べた。しかしなかった。
(もしかして、灯台下暗しで、ホテルのトイレに立ち寄ってないかな……?)
会場の前で写真を撮ろうとしたなら、その前に化粧直しをしていても良さそうな雰囲気の子たちだった。
――「ねえ、もう一度ホテルを探してみない?」
――『いや、俺もそう思った。あの子たち、見落としてるところあるんじゃねーかって思ったんだよ』
――「そう思うわ。ロビーのトイレとか、ラウンジ階のトイレ、見なかったよね?」
――『トイレか! そういや見てねーな! いや、俺が見たら駄目なんだけど!』
急いで戻る、という梶原に、後を追う、と答えて、鳴海もホテルに急いで戻った。トイレなら梶原は立ち入れない。鳴海が早く戻らなければならないのだ。
走ってホテルに戻る中、鳴海は笑ってしまった。強引なところがあるかと思ったら、こんなに他人に一生懸命になれるなんて、梶原は凄いな。梶原の、『推しを大切にする』という気持ちがひしひしと伝わって来て、鳴海の腐女子魂と共鳴する。梶原みたいなやつだったら、鳴海の推しのことも馬鹿にしないだろうし、尊重してくれそうだ。そう思えるほどに、鳴海は梶原を信頼できるようになっていた。
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